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規制改革推進会議「新提言」もまた「不合理」かつ「理不尽」                              (当研究会の「意見」2016/11/17)

平成28年11月17日

規制改革推進会議・農業WGによる
「牛乳・乳製品の生産・流通等の改革に関する意見」に対する意見
― 目的とは真逆の改革を進めるものであり、検証は不可欠 -


酪農乳業関連制度研究会


 規制改革推進会議・農業ワーキンググループ(WG)は、11月7日付で「魅力ある牛乳・乳製品を作り出す酪農業の実現に向けた改革の方針」を公表するとともに、わずか4日後の同11日には、提言内容に関するろくな議論をした形跡もないままに、「牛乳・乳製品の生産・流通等の改革に関する意見」(以下「新提言」)を公表しました。私たち「酪農乳業関連制度研究会」では、2016年4月の旧・規制改革会議による提言に対し、9月4日付で、このブログ上に「意見」を公表しましたが、「新提言」を受けて、あらためてこの内容に対する考え方を示したいと思います。

 この「新提言」における、指定団体制度の見直しの観点からの主要なポイントは以下の2つです。
 第1点は、生産者が自ら自由に出荷先等を選べる制度とすること。
 第2点は、加工原料乳生産者補給金の交付対象者について、指定団体に委託して生乳を出荷する生産者に限定せずにすべての生産者を対象とすること。

 もっともらしく聞こえる提言ですが、第1点目については、事実の歪曲があるように思えます。なぜなら、現行制度においても、生産者は自由に出荷先を選ぶことができるからです。

 互助精神に基づき加工原料乳の価格面での不利性と需給調整のリスクを共同で負い、ローリスク・ローリターンの安定的な経営を選択する大多数の生産者には補給金が交付されますが、その大多数の生産者の互助精神と負担に依存し、隙間を狙って飲用向けに限定して生乳を販売し、自らの利益のみを追求するハイリスク・ハイリターンの経営を目指すこともまったくの自由です。このような仕組みの中で、結果としてほとんど(97%)の生産者が法定の信頼感ある指定団体に委託して生乳を販売することを選択しているに過ぎません。

 第2点目については、出荷形態によるハンディキャップをなくし、指定された農協のみに国が財政支援を行うという、現行の方式は是正すべきであるとしています。しかしながら、実際には、指定団体を通して生乳を出荷する生産者が価格面で不利な加工原料乳の生産を引き受けています。さらにその際、加工向け乳価と飲用向け乳価の格差が拡大しているため、補給金の交付を受けても、出荷量の一部を加工向けに販売する場合は、飲用向けに限定して生乳を販売する生産者と比べて手取り乳価がやや低いという、「逆のハンディキャップ」が存在します。それは指定団体制度が創出した、価格の異なる用途別取引が国内の生乳取引の基軸となったなか、最高価格の飲用向けに限定した制度外取引と、用途別の加重平均価格(補給金込み)が実質手取りとなる制度内取引との価格差、つまり最高価格と平均価格を比べるようなものです。

 それゆえに、指定団体に生乳の販売を委託している大多数の生産者は、そのような飲用向けのみに限定して販売しようとする生産者に対して、制度を利用して「いいとこどり」をしていると考えているわけです。こうした中で、「いいとこどり」をして手取り乳価が相対的に高い生産者に対して、需給調整に何の責任も負わずにハイリスク・ハイリターンを追求した経営の結果として、たまたま収益上不都合な加工原料乳が発生した場合に補給金を交付すれば、イコールフッティング(競争を行う際の諸条件を平等にすること)とはいえないどころか、「いいとこどり」をする生産者を優遇し、生産者間の不平等を助長することになるのではないか、と指摘しているわけです。(補論4へのリンク

 なお、類似した制度を持つ米国やカナダでは、生産者間の競争条件を平等にするため、同一地域の生産者にはプール乳価により同一乳価が支払われる仕組みとなっています。比較的緩やかな制度にみえる米国では、他の地域から用途別価格の高い飲用向けに生乳を持ち込んで販売しても、持ち込んだ先のプール乳価が支払われる仕組みとなっており、「いいとこどり」をしようとしてもできません。それによって、生産者間の自由な競争が行われる条件を確保しているということであり、規制改革推進会議はこのような事例も「まじめに」参考にして、真のイコールフッティングとは何かを議論する必要があると考えます。

 今回公表された「意見」には具体的な記述が多いため、議論が必要な論点や明確化が必要な論点が多数あります。以下では、総論的な論点と、各論的な論点に分けて、考え方をまとめます。


1 総論的な問題点

 11月7日の規制改革推進会議では、総理自ら、真に農業者の立場に立った提言を早急にまとめていただきたい旨発言されているようですが、規制改革推進会議においては、真の農業者である大多数の酪農家の意見にはとほんど耳を貸さずに議論が進められており、総理の発言すら無視されるという、異常ともいえる状況になっているのではないかと危惧しています。

 たとえは悪いかもしれませんが、規制改革推進会議にける議論は、まるで、互助精神により価格面で不利な加工原料乳の生産と生乳需給調整のリスクを共同で負い、日本酪農の屋台骨を支える大多数(97%)の生産者及び指定団体等を被告とし、その負担に依存しつつ自己の利益のみを追求するごく少数の生産者等(残る3%のなかの、さらに一部)を原告とする裁判のようであるとの印象です。

 しかも、裁判官たる規制改革推進会議は、原告である特定の卸売業者およびその関係者の証言を、事実関係や論理の整合性すら検証なく、唯々諾々と証拠採用するものの、被告である大多数の酪農乳業関係者の証言は、ほとんど無視あるいは却下して証拠採用もしないという、まるで独裁国家の裁判とでもいうような異常な状況となっています。

 今回の「新提言」には様々な意見が記載されていますが、十分な議論がなされていない中で唐突に様々な意見が出されています。したがって、4月の「提言」の際もそうでしたが、「新提言」に示された様々な意見が現実の経済の中で支障なく実行可能であるのか、あるいは掲げている目的が達成されるのか、などの検証がまったくなされていません

 以上のような状況を踏まえ、少なくとも、実務を担っている専門家から実行可能性や目的どおりに改革が機能するのか真摯に意見を聞いた上で、最終的な意見をまとめるべきであると考えます。規制改革推進会議は、原案の作成段階から今はやりの第三者委員会のような様相を呈していますが、なんといっても餅は餅屋です。


2 各論的な問題点

 具体的に検証すべき論点を挙げれば、以下のとおりです。

 第1に、目的としている酪農家の所得の向上や生産基盤の強化が図られるのかという論点です。

 指定団体の改革については、海外の先行事例(英国のミルク・マーケティング・ボードの解体)で、一元集荷多元販売等の法的権限をはずすことにより、どのような影響が生じているのか、検証済みであるにもかかわらず、このような貴重な事例をまったく無視しています。

 また、生産や経営の安定等を図るため、類似した制度を持つ米国やカナダでは、組織は統合する方向で改革が進められているにもかかわらず、規制改革推進会議はこれとは逆方向の分割縮小を誘導する方向に舵を切ろうとしています。これでどうして、酪農家の所得の向上や生産基盤の強化が図られるといえるのか、まったく理解できません

 第2に、指定団体の機能は維持されるのかという論点です。

 規制改革推進会議においても、指定団体の機能の維持が重要であるという認識を示しているにもかかわらず、生産者が販売先を自由に選べる仕組み(組織が小さく・多数になる)としていることや、部分委託が可能となる仕組み(全量委託の原則廃止)を導入することとしていることなどから、各販売組織の取り扱い数量が流動化・不安定化することになって、需給調整は困難となり、価格交渉力も弱まると考えられるなど、指定団体の主な機能は維持できなくなると考えられます。

 指定団体制度を廃止しても、農協等による共同販売さえ認めれば、生産者の団結力により自主的に生乳需給の調整などを行うはずだ、との指摘もみられます。しかし、制度改革により飲用向け中心に生乳を販売しようとする生産者が一定のシェアを持つようになれば、その分だけ既存の農協系の販売組織(指定団体)に加工原料乳の生産や需給調整のしわ寄せがいくこととなり、現行の指定団体が担っていた需給調整などの機能は維持できなくなるものと考えられます。

 第3に、「新提言」は、補給金の目的は「加工原料乳の生産を奨励するという補給金の目的に即し」と書いてありますが、法律上の補給金の目的は、加工原料乳地域における生乳の再生産を確保することだったはずです。

 「新提言」が法の目的の解釈を取り違えて述べている「加工原料乳の生産奨励」とは反対に、現行法は加工原料乳地域が飲用乳地域となっていくことを想定したものです。それが実現するまでの「暫定措置」であるにもかかわらず、わざわざ、相対的に乳価の低い加工原料乳の生産奨励へと制度目的の解釈を勝手に変更することは、酪農家の所得の向上という改革目的に反するばかりか、市乳化までの暫定措置期間において、競争上不利な乳製品向けへの生乳供給を引き受ける生産者に対して国費で支援を行なうという、制度本来の目的を著しく歪める「矛盾」を生むものです。

 なお、補給金の交付にどのような基準を定めるにしても、広範な地域から集乳する卸売業者を通じて生乳を販売している生産者については、どのようにして個々の生産者ごとの加工原料乳の生産数量を把握するのかなど、解決が困難な課題が多々あると考えられます。さらに、このようにして販売される生乳の価格は、飲用向けとも加工向けとも区別が明確につかない単一の混合乳価と考えられるため、価格面での不利性を補償する補給金の性格から、その一部が加工原料乳であったとしても、補給金の対象とできるのか、また、交付対象として明確に区別できるのか、については大きな疑問が残ります。

 第4に、条件不利地域の生産者に対して集乳経費補助を行うとありますが、これは加工原料乳に対する補給金への上乗せを求めた内容と読めます。しかし輸送に不利な遠隔地の生産者に対する集送乳面の補正は、加工原料乳・加工原料乳地域に限定する理由はありません。この場合、飲用も含めて上乗せされなければ、とりわけ都府県における離島など、飲用向け生乳を供給する条件不利地域の生産者はほとんど補助を受けられず、これらの生産者を支えるには全く不十分ということになります。

 また、今回の制度改正案によれば、指定団体制度の下で、生産者が共同で負担することにより財政負担なしで合理的に調整されていた集送乳経費の一部が、補助金に付け替えられることになります。財政的な観点からも、これが合理的な制度改革といえるのか疑問です。
いずれにしても、制度設計が非常に困難な提言であると思われます。

 第5に、乳価交渉に関する意見についてです。
 生産者のコスト増要因見合いでしか値上げ交渉ができていない、真に生産者のためにあらゆる手段を尽くした交渉へと改革すべきである、乳価交渉のメンバーや交渉プロセスを抜本的に見直す、などとしていますが、何が問題でどうしたいのかまったく不明です。具体的な乳価交渉のあり方が提示されなければ、その有効性や現実性を議論できません。つまり「話にならない」意見です。

 そもそも乳価交渉は民間同士で行っているものであり、乳業は小売への販売交渉状況をも踏まえ、生乳生産費の動向や需給事情に加え、生乳の安定確保を考慮しつつ交渉していると理解しています。また、乳業メーカーは、自らの生産性も考慮した適正価格での安定的な生乳取引が行われるよう配慮すべきである、としていますが、生乳の安定確保のためにも、そのようなことは、すでに当然のこととして行われているものだと理解しています。

 第6に、酪農関連産業の構造改革についてです。
 乳業の再編については、民間企業に統廃合を強制することはできない中で、「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」を踏まえ、乳業再編事業を活用しながら粛々と実施されているものと理解しています。

 また、同11月11日付で公表された未来投資会議と規制改革推進会議・農業WGが合同で取りまとめた資料によれば、乳業を含めた業界再編・設備投資等を推進するとし、その改革を推進するため、農産物の流通・加工に関し、国の責務、業界再編の推進手法等を明記した新法を制定する、とされています。したがって、乳業の再編は新法を制定してまで推進する方針ということになりますが、はたして民間企業である乳業の再編に国がどこまで強制力をもって関与するつもりなのか、推移を見守る必要があると考えます。

 第7に、飲用牛乳・乳製品価格の安定を図るため、欧米に比して過当競争となっている小売量販店の業界再編と不公正取引の是正が必要である、としていますが、そこまで踏み込むことができるのであれば、国家貿易の運営方式の改革を行う前に、バター等乳製品のモニタリングについても、乳業メーカーが販売した先の流通・在庫等の状況について、販売戦略として流通在庫が膨らんではいないか、売り惜しみはしていないかなど、規制改革の観点から、末端の小売にまで強制力を伴う実態調査等の検討を行うべきであると考えます。


 以上のとおり、「新提言」には様々な論点が提示されていますが、それらが現実の経済の中で支障なく実行可能なことなのか、あるいは掲げている目的が達成され得るのか、専門家も交えた議論や検証さえ行われていません。関連産業への影響の大きさを考えれば、今秋までに結論を得るとした時間の制約や振り上げたこぶしのおろし方を考える必要はありません。規制改革推進会議は、総理自ら、真に農業者の立場に立った提言を早急にまとめていただきたい旨発言されているという事実と、大多数の酪農家や関連産業に従事する者が「意見」を批判している事実を重く受け止め、酪農乳業関係者が納得のできる、真に酪農の安定と発展に資する「意見」をまじめに提言していただきたいと考えます。

 この11月11日の農業WG「新提言」に対する、私たち研究会の総括的な見解とは、「内容の不合理」ゆえに「理不尽」なものである、というものです




 当研究会の論考を最後まで読んでいただきありがとうございました。

 「新提言」の最終的な扱いについては、来週(11月21日の週)中にも結論を出す見込みと報じられています。みなさまには、一人ひとりの思いを是非、「コメント」という形でお伝えいただければ幸いです。また、私たち研究会の意見に賛同していただける方は、是非「拍手!」をクリックしてください。

 また、国と食料に関する、極めて重要な制度が扱われた議論であると、私たちの研究会は考えており、「十分かつ慎重な検討がなされるべき論点」が広く国民のみなさまの目に触れる形で公論に付されるものであって欲しいと願っています。この趣旨にご賛同いただける皆様には、是非、私たちの「意見」や論考を、様々な形で広げていただきたい。「拡散希望!」であります。


        
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規制改革会議・指定生乳生産者団体制度改革論議を糺す

 平成28年9月2日
          規制改革実施計画の推進に対する意見

酪農乳業関連制度研究会
共同代表 東京大学 矢坂雅充
共同代表 京都大学 新山陽子
 本年5月に公表された規制改革会議の答申において、指定生乳生産者団体(以下「指定団体)については、「指定団体の是非や現行の補給金の交付対象の在り方を含めた抜本的改革について検討し、結論を得る」とされており、また、本答申の1ヵ月前の4月に公表された提言には、指定団体制度の廃止等が盛り込まれています。
 規制改革会議の答申・提言は、一昨年のバター不足問題の原因を酪農の「指定団体制度」に求める結論となっています。しかし、指定団体改革が進展するまでもなく、課題とされたバターの需給事情や酪農家の所得は現在、既に大きく好転しています。このことは、規制改革会議で展開された議論が、果たして的を射ていたのか、大きな疑問を投げかけるものといえましょう。
 一方で、日本の酪農・乳業の産業実態とかけ離れた議論が行われた結果、規制改革会議の「指定団体制度の廃止」提言に基づく改革を、仮に、提言のとおりに行えば、規制改革会議がいう「酪農家の所得向上」という目的とは裏腹に、酪農家の所得は全国的に低下し、また消費地から遠くにある主産地を中心に生産は縮小し、ひいては乳業をはじめとする関連産業の衰退も懸念されると考えます。この結果、消費者に安全でおいしい国産のバターをはじめとした牛乳乳製品の安定的な供給に、より一層支障をきたすことも懸念されます
 酪農を基礎産業とした関連産業に従事する人々には、国民に対して国産の安全な牛乳乳製品を安定的に供給する責任があります。このため、今秋までの結論を求めた実施計画の推進に当たって、規制改革会議による議論の不備を是正した偏りのない公正・公平な論点の再検証を行うよう強く求めます

 提言の中には数多くの問題があると認識していますが、ここでは4つの論点に絞って、その理由について簡潔に説明します。 (※ この「意見」に関する補論など、関係記事の一覧はこちらへ。)

1 規制改革会議の委員構成の問題点
 規制改革会議では、牛乳・乳製品の生産・流通等に関する規制改革のような専門的な事項については、農業ワーキンググループ(WG)において議論される仕組みとなっています。しかしながら、農業WGには牛乳乳製品の生産・流通に関する豊富な知見を有する委員はたった1名に過ぎないばかりでなく、事務局にも全くいません。
 このような委員構成の中で議論されれば当然予想されるとおり、規制改革会議の提言は、当該委員の考え方そのものであると理解しています。言い換えれば、全国1万7千戸の酪農家と関連産業従事者の命運を左右する重大な改革が、たった1人の専門家の意見によって決められた経過となっています。しかし、「提言」のとおり改革(指定団体の廃止)を実行した場合、どうして規制改革が目指す目的(生産基盤の維持・回復、酪農家の所得向上)が果たされるのか、国内酪農・乳業で専門的な実務を担う関係者の圧倒的多数が「その論理を全く理解できない」という異常な状況となっています
 私たちは、このような重要な制度の改正の検討を行う場合、当然のことながら、牛乳乳製品の生産・流通に関する豊富な知見を有するバランスのとれた複数の学識経験者や、制度の改革によって大きな影響を受けるであろう当事者も委員に加え、「現実に即した」幅広い議論を行うべきと考えます

2 ヒアリングの対象者選定の問題点
 上記のような事情を背景に、規制改革会議の「提言」は、ほとんどの関係者が共有する主流(サイレント・マジョリティ)の意見とは異なり、また産業実態のバランス上からも著しく偏った意見を無条件、無批判に重用した「偏向」を生じています。
 私たちは、このような重要な制度の改正の検討を行う場合、当然のことながら、関係者が共有する主要な意見の割合に十分に配慮し、バランスよく幅広い意見を聞いた上で慎重に判断すべきものと考えます

3 目的とは真逆の結果が予想されるという問題点
 私たちが最も問題ありとするのは、規制改革会議の提言が酪農や牛乳乳製品の生産・流通の実態面をあまねく理解しているわけではないたった1人の委員の意見のみを反映して決められた結果、提言がどのような影響を実態経済面に及ぼすことになるのか十分に評価・分析されていない点です
 生乳を生産するほとんどの酪農家も、生乳を購入して牛乳乳製品を生産・販売するほとんどの乳業者も共通して、提言のとおり改革を行えば、規制改革会議がいう目的とはまったく反対に生産は縮小し、酪農家の所得は低下するとみているという事実を「深刻に受け止めていただきたい」と思います
 提言のとおり、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとした場合、消費地や飲用牛乳工場から遠くにある主産地(加工原料乳地域や離島等)の生産者ほど輸送コストがかさむため不利になり、地方創生どころか地方における離農が加速化するものと考えられます。加えて、価格の高い飲用市場に需要を超えた生乳が流れ込むことから、飲用乳価は当然低下すると予想されます。それは、とりわけ都府県における生産の縮小を加速させ、消費者にとっては「一時的に」牛乳価格の低下という恩恵をもたらしますが、国内酪農の縮小を加速させる結果、国産のバターなどの乳製品の供給にも深刻なダメージを与えかねません。
 また、指定団体は、天候、季節、学校給食の有無などにより生産も需要も日々変化する中で、乳業者との協力の下、地域的にも過不足が生じないよう生乳の需給調整を日々行いながら消費者に安定的に牛乳乳製品を供給する重要な役割を担っていますが、この重要な機能が発揮できなくなるおそれがあります。
 与党である自民党は、昨年、酪農家の所得を向上させるという同じ目的のために、農水省をはじめとする関係者から意見を聴取の上、規制改革会議とは真逆の生産者組織の再編統合・強化を推進する旨のとりまとめを行い、今まさにその推進中にあります。この制度をめぐる、国の中枢での議論の結果が「制度廃止」と「制度強化」の両極端に分かれている現状は、この制度に関する議論が十分に尽くされておらず、国民・消費者の「利益」に対して、真摯な方向性が定まった状況とは程遠い事実を如実に物語っているものと考えます。
 (※「3 目的とは真逆の結果が予想されるという問題点」の詳細はこちら

4 提言は生産者間の不平等を助長するという問題点
 指定団体について、生乳販売市場を独占しているとの誤解があります。すなわち、生乳を生産すれば、高い飲用向けで売れない分は安い加工向けに回す必要があります。その加工原料乳の価格面での不利性・リスクに対し、政策的な支援を求める生産者が「自由意志」により指定団体を構成し、リスク負担を参加農家全体で平等に分け合うシステムが指定団体による生乳の共販体制であり、それを補うために補給金が交付されています。このようにほとんどの生産者が価格面での不利性や過剰時における減産のリスクを含めて加工原料乳の供給を引き受けるからこそ、いわゆるアウトサイダー(指定団体による生乳共販に参加しない、自由取引農家)の生産者は飲用向けに限定した販売が可能となり、高い乳価を享受しているのです。
 規制改革会議の提言は、このような指定団体の需給調整及び傘下の生産者の負担に依存し、飲用向けに限定して生乳を販売し高い乳価を享受している生産者にも補給金を交付するようにせよという内容ですが、これではリスク負担を負わぬ者に国費でリスク補填を行うという意味で、生産者間の不平等を助長する制度を政策的に構築することになります。いわば保険の掛け金を払わぬ者にも保険金を払えと、保険会社に命じるようなものだといえるかもしれません。これが経済合理性・政策合理性を有するものだといえるでしょうか。
 飲用向けと加工向けの乳価をプールし、同一地域内の生産者の乳価を平等にする制度は日本に限ったものではなく、自由主義を標榜する米国やカナダでもほぼ同様の制度となっています。言い換えれば、生乳の腐敗しやすいという商品特性を反映して、世界的には、同一地域の生産者の乳価を平等にするのがイコールフッティング(競争を行う際の諸条件を平等にすること)だということです。EUの直接支払い制度を過度に礼賛する論調も見受けられますが、EUでは国際的な需給変動とともに、数年おきに酪農家が暴動やデモを繰り返しており、近年では、日本における指定団体制度にも似た「新たな生乳共販制度」を模索する議論も活発化している現実があります。(※「4 提言は生産者間の不公平感を助長するという点」の詳細はこちら)




「酪農乳業関連制度研究会」について

 私たちは、酪農乳業関連制度に関する研究を行う者及び酪農乳業関連産業に従事する者の有志による組織横断的な連携によって、この「議論」の正常化を目指すことを目的に、このブログを立ち上げました。
 このたび、「農業と経済」(昭和堂)2016年9月号において、同誌から「規制改革議論の現場と実像」―第1部・生乳流通再編をどうみるか―と題する特集が掲載され、その執筆者とともに、特集内容に共感を有する有志により構成されています。
 当該特集では、事前の打合せもなく、研究者、生産者、乳業者、消費者等それぞれに異なる立場から自由に論考などを行いました。
 ある程度予想はしていたものの、結果として同誌が発行されてから判明したのは、それぞれの異なる立場を超えて、共通して規制改革会議の提言・答申に大いに疑問を呈する内容になっていたという事実です。
 そこで私たちは、規制改革会議自体、会議の運営の仕方、及び提言の抱えている根本的ともいえる問題点について、一般の方々にもご理解いただけるように論点を4つに絞って「規制改革実施計画の推進に対する意見」としてとりまとめ、公表することとしました。大手マスコミが酪農乳業に関する基礎的な知識を踏まえた正確で客観的な報道を行わず、農業・農協一般に対してよく用いられる的外れでステレオタイプな論評しか掲載しない中で、酪農乳業関連産業従事者はもちろんのこと、少しでも多くの心ある一般の方々にも規制改革会議やその提言等の何が問題なのかをご理解いただけることを願うものです。
 私たちは、規制改革会議における議論、提言等について逆に検証するとともに、私たちのもつ当然の疑問に対して、規制改革会議に説明責任を果たしていただきたいとも考えています。
 みなさまには、私たちの意見をご一読いただき、自由にご意見をなど寄せていただければ幸いです。
 また、賛同していただける方は、是非「拍手!」をクリックしてください。さらに、強く賛同される方は、賛同者の一員として是非、名前を連ねていただくよう期待しています。名前を連ねていただける方々には、コメント欄に職業又は企業名、役職、氏名などをご記入いただければ幸いです。


酪農乳業関連制度研究会
共同代表 東京大学 矢坂雅充
共同代表 京都大学 新山陽子










3「目的とは真逆の結果が予想されるという点」に関する補論



 望外に多数のアクセスとともに、様々なコメントをいただきありがとうございます。
 私たちの意見に賛成であれ反対であれ、実体経済に大きな影響を及ぼす制度改革を行うならば、現実に即した幅広い議論が必要であると考えます。酪農(生乳生産額7千億円)、乳業(牛乳乳製品生産額2兆2千億円)というダイナミックな産業は、特定の仮説を試行する社会実験の場としては経済規模が大きすぎます。制度改正を行うならば、実務に責任を有する関係者の意見をよく聞いた上で、制度改正により影響を受けるであろう関係者のだれもが納得できるよう、実態経済面への影響について慎重な検証・分析を踏まえて行うべきであると考えます。
 このブログが、規制改革会議では残念ながら実現できているとは思えない、偏りのない公正・公平かつバランスの取れた真摯な議論の場となり、規制改革会議のあり方や提言、規制改革実施計画などの方向性を、真に日本の酪農の発展に資するものに見直すきっかけとなることを切に願っています。
 ここでは、可能な限り簡潔を旨とした、ブログトップページ掲載の「意見」では十分に触れることのできなかった3「目的とは真逆の結果が予想されるという点について、「農業と経済」における論考などを踏まえ、以下に順次、やや詳しく触れてみたいと思います。


3 「目的とは真逆の結果が予想されるという点」

1  酪農生産適地が輸送コスト面から不利に

  ここでの議論の前提として、生乳は用途別に価格が異なっており、その中でも飲用乳価が最も高くなっている理由について理解する必要があります(注:飲用向け乳価 約115円/kg、バター等の加工向け乳価 約75円/kg)。飲用乳価が最も高い水準で維持されているのは、生鮮向け(野菜や果物など)が保存性の高い加工向け(漬物向けや果汁向け)よりも高いという食品一般に共通する需給面での理由のほか、指定団体が乳業メーカーと連携・協調して用途別の需要に応じた的確な配乳を行い、飲用向けへの生乳供給を需要に応じた水準に調整しているからです。スーパーで牛乳の売れ残りをほとんど見ることがないのはこのためです。

  このような中で、規制改革会議において議論されているように、指定団体制度を抜本的に見直して、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとした場合、どのようなことが起こるでしょうか。この場合、消費地に近く、かつ、飲用牛乳工場に近い地域で生乳を生産している酪農家・新組織ほど有利になるはずです。なぜなら、最も乳価の高い飲用向けに限定して生乳を販売することができることに加え、輸送コストも安く済むからです。

  他方、北海道の道北など消費地から遠くて近隣には乳製品工場しかない地域や、鹿児島県の種子島のように離島のため生乳輸送コストが高くならざるを得ない地域の生産者はどうなるでしょうか。考えるまでもなく、そのような地域で酪農を営む生産者は圧倒的に不利になります。例えば道北の場合、近くには乳価の安い乳製品工場しかありませんし、離島の場合、乳価の高い飲用牛乳工場には相当のコストをかけて海を越えてまで運ばなければなりません。このため、このような地域での生産は衰退に向かうでしょうし、結果的にバターなどの乳製品の生産も減少し、都市近郊酪農だけが生き残る事態ともなりかねません。

  一方、輸送コスト面などに大きな不利を抱えるこれら地域は土地条件の制約が比較的少ないため、経営規模の拡大や自給飼料の生産にも適しています。また、都市部や住宅地から離れ、広大な農地を利用した自給飼料生産には、家畜排泄物を堆肥として有効に活用することにより環境問題による近隣住民との軋轢も少ないため、酪農生産の適地といっていいでしょう。都市近郊での畜産環境問題の発生を抑制するため、政策的にもこのような適地での生産を一貫して推進してきたはずですが、このような政策の大きな流れとも矛盾してしまいます。


2 都市近郊酪農には、飲用向け生乳の供給過剰によって乳価の低下圧力がかかる

 それでは、都市近郊酪農は得をするのでしょうか。議論を単純化すると、多くの生乳が最も価格の高い飲用向けでの販売を目指して集中し、指定団体による生乳の用途別需給調整が機能しなくなればどうなるか、ということです。

 現在、生乳の国内生産は約740万トンで、飲用向けが約400万トンですが、この400万トンの飲用向け市場に、次第に740万トンの量的な圧力がかかることになります。この場合、需要(市場の必要量)を超えた生乳が飲用市場に流れ込むことから、飲用向け生乳の供給が大幅に需要を上回り、飲用乳価は当然低下するでしょう。指定団体による用途別の需給調整が行われなければ、需要に対して生産が大幅に不足しているといわれる現状においても、飲用向け生乳は供給過剰になってしまいます。

 いわゆるアウトサイダーの生産者が飲用向けの高い乳価を享受できているのは、皮肉にも、指定団体によるこのような需給調整のお陰で、他の用途よりも飲用向けの乳価水準が恒常的に高い市場が創出されているためです。しかも、指定団体傘下の生産者が、飲用に仕向けられなかった生乳について、加工原料乳の価格面での不利性や過剰時の生産調整(減産)のリスクを引き受けているからでもあります。

 したがって、規制改革会議の中で議論されているように、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとし、その新たな組織が飲用牛乳工場に近いなどのメリットを活かして飲用向け市場に割り込めば、そのしわ寄せはすべて既存の指定団体とその傘下の生産者が受けることになります。


3 さらに、飲用として売れない余乳が生産者の足を引くことに

 他方、指定団体による日々のきめ細かな需給調整が行われなくなると、飲用市場に国内生乳が集中する結果、乳製品工場が極めて少ない都府県の消費地域では、飲用向けの需要を超えて行き場を失った余乳がゲリラ的に発生することになりかねません。つまり前述した「飲用市場への生乳の集中」の次には、「売れなかった飲用向け生乳が、踵を返して数少ない乳製品工場に向かう」事態が生じることになります。

 指定団体制度が機能している現在は、各地域の指定団体と全国連との連携によって合理的な集送乳がなされ、余乳はコストの観点からも最適と考えられる乳製品工場(北海道を含む)でバターなどの乳製品の生産に仕向けられています。しかし、それができなくなると、乳製品工場の少ない都府県で行き場を失い、生乳(余乳)が廃棄されるリスクも高まると予想されます。なぜなら加工原料乳を支援対象とした現行制度が、半世紀に及ぶ歴史を通じて、この制度の下で最も効率的な産業機能配置の観点から、消費地に遠く生乳生産が豊富な北海道へと乳製品の加工処理機能の集中を誘導し、逆に消費地である都府県では乳製品工場が数の上でも加工能力の上でも極めて小さいものへと縮小に導いていったためです。

 さらに、現行制度の下では北海道で乳製品向けに供給されていたはずの生乳の一部が都府県に向かう結果、北海道内で乳製品向けの生乳が不足し、道内の乳業工場の操業効率が低下する展開も予想されます。そもそも産業の「基本」として、北海道などのように大消費地から遠い地域で生産された生乳は、牛乳よりも保存性の高い乳製品に加工して、供給の時期や量を調整しつつ大消費地に供給することが合理的でもあります。

 このように需要を超えて飲用市場に生乳が集中する結果、行き場を失った生乳が仮に廃棄を免れたとしても、余乳として応急的に委託加工された乳製品は品質が著しく劣ってしまうため商品としての価値が低く、割り増しコストも要しているため生乳に換算した価格は通常の加工向けの価格とは比べようもないほど低いものとなります。しかも、メーカーはこのような乳製品を在庫として持ちたがらないため、委託加工した乳製品は生産者側の引き取りが条件となるケースがほとんどです。


4  そして、生産者も消費者も得をしない世界へ

 結果的に、先に述べた飲用向けに生乳が集中することによる乳価の低下とあいまって酪農家の所得は低下し、バターなどの乳製品の生産も少なからず減少するものと思われます。

 このように、バター不足に端を発して、それとは無関係の指定団体制度を廃止すれば、規制改革会議のいう目的(生産基盤の維持・回復、酪農家の所得の向上、バター不足の解消)とは全く反対に、主産地を中心に生産は縮小し、日本全体の酪農家の所得は減少し、バター不足の解消どころか、不足に拍車をかけることにもなりかねないと考えています。

 読者の皆さんにご理解いただきたいのは、規制改革会議の提言が出たとき、実務を担っている関係者が口をそろえて「そんなバカな理屈があるものか」と一刀両断にし、あまりの見当違いに苦笑していたという事実です。第三者委員会が流行のご時勢ですが、「餅は餅屋」という言葉を軽視してはいけません。


5 バター不足の原因と指定団体の機能について(補足説明)

 ここで上記の補足的説明として、バター不足の原因と指定団体制度についても簡単に触れておきましょう。

 まず、バターの不足ですが、これは牛乳乳製品の需要に対して生乳生産が不足したために生じたものです。そのための対応策として国家貿易制度によるバター等の乳製品の輸入という仕組みが措置されています。残念ながら、一昨年は、国家貿易制度の運用が量とタイミングの点で十分に適切でなかったために、小売店頭においてバターの不足という現象が生じてしまったのでしょう。また、このことがマスコミによって報道されたことが消費者の買い急ぎを誘発し、不足に拍車をかけてしまった面もあるのではないかと思われます。

 次に、指定団体制度ですが、指定団体にはさまざまな機能があります。基本的な機能は、生乳の需給調整、生乳流通の合理化、そして生乳販売面における価格交渉力の強化でしょう。いいかえれば、需要に応じた生乳生産(需給逼迫時には増産に努力)と合理的な集送乳を通じて酪農経営の安定と所得の向上を図ることを主な目的としているといっていいでしょう。バター不足問題とはまったく無関係どころか、国家貿易制度の運用と連携して、むしろそのような事態をできる限り回避するための仕組みとして機能しているといえます。

 なお、次回は、4「提言は生産者間の不平等を助長するという点」について詳しい説明を試みる予定です。










4「提言は生産者間の不公平感を助長するという点」に関する補論




 前回に引き続き、今回は4「提言は生産者間の不公平感を助長するという点」について、やや詳しく触れてみましょう。


1 提言はいいとこ取りを奨励し、乳価の格差を拡大する

 ここでは、経済学者などが好んで使う投資関係の用語を用いて今回の規制改革会議の提言の意味するところを考えてみたいと思います。

 指定団体傘下の生産者(インサイダー)は、価格の高い飲用向けの市場に無理に販売をせず、生乳需給の季節的変動などによって必然的に発生する加工原料乳の価格面での不利性や供給過剰時の生産調整(減産)のリスクをすべて共同で平等に引き受け、そのリスクに対して国から補給金の交付を受けることにより、経営の安定を図るという経営を選択しています。さしずめローリスク・ローリターンの経営を行っているといえるでしょう。

 他方、アウトサイダーの生産者は、生産した生乳をすべて価格の高い飲用向けの市場に販売することによって利益の最大化を図る一方、飲用市場で販売しきれない場合のリスクを負っています。さしずめハイリスク・ハイリターンを目指す経営を行っているといえます。現行制度の下で、いずれも自らの自由な判断により選択したものであり、それはそれでよいでしょう。

 では、このような文脈でみた場合、今回の規制改革会議の提言はどのようなことを意味するのでしょか。

 インサイダーである平均的な生産者の正直な気持ちを、巷間言われている直截的な言葉を借りて表現すれば、需給調整などの面倒なことや加工原料乳の価格面での不利益などは既存の指定団体や傘下の生産者の負担に依存しておいて、飲用乳価の価格面でのおいしいところだけをすくいとるような行動をとる生産者を支える仕組みを作ること、といえないでしょうか。

 現行制度の隙間を利用し、ハイリターンを求めて生乳を飲用向けの市場のみで販売しようとした結果、販売しきれずに加工原料乳が発生してしまった場合に、それに対して補給金を交付することになりますが、それは既存の指定団体傘下の生産者の負担に依存して、ハイリスク・ハイリターンの経営をローリスク・ハイリターンどころか、ほぼノーリスク・ハイリターンにすることを意味します。


2 リスク負担を負わぬ者にリスク補填する政策的合理性はあるか

 つまり制度に基づく補給金を受け取る者の公的責務として、自らの努力と負担も伴いながら安定した経営環境の獲得と、安定した生乳供給を実現すべく努力しているインサイダーに対し、インサイダーの創出した有利市場である「飲用市場」だけを目指して生乳を販売し、売り切ることに失敗した時には、需給調整への参加もなくインサイダーと同じ補給金を手にする。それは単なる「損失補てん」ではないか。リスク負担を負わぬ者に国費でリスク補填を行うという意味で、生産者間の不平等を助長する、あるいは広げるような制度を政策的に作り上げることになるのではないか。この問題を規制改革会議の逆側から見つめる国内生乳生産のおよそ97%を担う農家の視点は、そういうものになります。

 またその結果、前回の補論で述べたような混乱の影響から、酪農家の離脱や飲用市場への供給過剰、乳製品向けへの供給不安定化をもたらすことになります。そうした食料供給の不安定化を「積極的に誘導する政策」、それが果たして国費を投じる政策として国民の要請にかなったことと評価されるものなのでしょうか。


3 米国の酪農政策はどうなっているか
  ~日本で言えば指定団体の再編を推進し、同一地域の生産者乳価を同一に~


 規制改革会議関係者から、イコールフッティングという言葉がよく聞かれます。辞書を引くと、イコールフッティングとは「競争を行う際の諸条件を平等にすること」とあります。

 ここで自由競争に最もうるさそうな米国の例を見てみましょう。米国の酪農は、1937年(昭和12年)農産物販売協定法に基づく連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)制度によって規制されています。

 FMMO制度は、独自の制度をもつカリフォルニア州を除き、全国の主要な生産地を10のオーダー(日本の広域指定団体の地域ようなもの)にまとめ、同一のオーダー内で生産される生乳について、用途別の最低取引価格を設定するとともに、乳業者に対して、用途別乳価を加重平均したプール乳価で支払うことを義務付けています。

 指定団体改革の観点からもう1つここで注目すべきは、このオーダー(地域)数の推移です。1962年(昭和37年)のピーク時には83ものオーダーがありましたが、生産者に対して安定的な市場を提供するとともに、消費者に対しては合理的な価格で十分な量の良質な牛乳を提供することを目的に、1990年代後半までに31にまで統合され、さらに1996年(平成8年)農業法によって11に再編統合され、現在では10にまで統合されてきているという事実です。1937年(昭和12年)農産物販売協定法に基づくFMMO制度は、制度疲労を起こすどころか、むしろますますその力を発揮しています。米国のFMMO制度は、日本の指定団体の機能(プール乳価での支払)を乳業側が担うという違いはありますが、乳価の形成や酪農経営の安定を図るために、政策が目指す方向と手段は類似しているといえるでしょう。


4 カナダの酪農政策はどうなっているか
 ~日本で言えば、指定団体を一層統合し、より広域の生産者の乳価を同一に~


 また、カナダでは厳格な生乳供給管理制度が採られています。その運用は、連邦政府と州政府により分担されており、連邦政府が加工原料乳の供給管理を、州政府が飲用乳の供給管理を、それぞれ連携を取りながら行っています。

 実際には、加工原料乳については連邦政府の機関であるカナダ酪農委員会が、飲用乳については州政府により法的権限を与えられた生産者が運営するミルク・マーケティング・ボード(MMB:日本の広域指定団体のようなもの)等が、それぞれ供給管理を行うとともに、州政府が用途別の乳価を決めています。その際、加工原料乳価格はカナダ酪農委員会が定める乳製品の支持価格を参考に決定し、飲用乳価は各州政府が独自に決定する仕組みとなっています。

 生産された生乳については、日本の指定団体と同様にMMB等がすべて一元的に購入し、個々の乳業者に販売する一元集荷多元販売が行われています。また、生産者には日本や米国と同様、加重平均したプール乳価での支払いが行われる仕組みとなっています。従来は州単位で乳価がプールされていましたが、現在はさらに再編統合が進み、あの広大なカナダを東部5州(P5)と西部4州(P4)の2つのグループに統合し、生産者にはプールした乳価が支払われる仕組みとなっています。

 なお、日本においては、指定団体は1966年(昭和41年)に施行された加工原料乳生産者補給金等暫定措置法に基づき、全国の各都道府県に設立されましたが、2000~2001年(平成12~13年)に47から10に再編統合され現在に至っています。


5 イコールフッティングとは、同一地域の生産者の乳価を同一にして競争条件を平等にすることではないのか

 以上のとおり、酪農先進国である米国及びカナダにおいては、規制改革会議が提言した指定団体を廃止あるいは分割するような方向とは真逆の対応が進んでいます。これを日本に置き換えれば、いわば指定団体の再編統合が今なお進んでいるということになります。

 以上の例をみればわかるとおり、自由取引・自由競争を旨とする両国においては、競争を行う際の諸条件を平等にするためにこそ、同一地域(日本の広域指定団体がカバーする地域よりもはるかに広い地域)の生産者の乳価をプール乳価により基本的に同一にしているということに注目すべきでしょう。これが本来の意味でのイコールフッティング、すなわち競争を行う際の諸条件を平等にすること、ということではないでしょうか。

 はたして、規制改革会議の提言の内容が競争の諸条件を平等にするイコールフッティングといえるのかどうか、本ブログの読者ばかりでなく規制改革会議の賢明なる委員の皆様に冷静に判断していただきたいと思います。








         
プロフィール

酪農乳業関連制度研究会

Author:酪農乳業関連制度研究会
 私たちは、規制改革会議による指定生乳生産者団体制度に関する提言等について、ある雑誌の特集に様々な立場から論考を執筆した者及びその特集内容に共感する有志です。
 特集では、それぞれに立場は異なるものの、一致して規制改革会議の運営の仕方や提言等について根本的な疑問を共有していることがわかりました。このため、関係者ばかりでなく一般の方々にも、私たちが何を問題としているのかを理解していただきたく、意見を表明することとしました。

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