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制度理解の前提として考えるべき「酪農の事情」

 ここでは、研究会の論考を理解するうえでの「参考」として、酪農の制度政策論議を行なうにあたり、基本としておさえておくべき酪農の事情について、ここでは酪農の「生産活動」と「生乳需給調整」との関わりから解説したいと思います。(研究会員T)


1.生乳流通上の基本的な制約要因

 酪農家の仕事とは、一般の方々もよくご存じのように、乳牛を「良好な健康状態」で飼い、授精して子牛を出産させ、母牛の出す乳を搾って畜産物として出荷することが基本です。

 農家が出荷する乳は「生乳(せいにゅう)」と呼ばれます。腐敗しやすく、品質の劣化も早いため、その出荷管理には「冷蔵」(エネルギー及び施設にコストを要する)とともに、可能な限り素早く流通(物流コストを要する)し、速やかに製品とすることが産業命題となります。製品化されたものは、牛乳・乳飲料などの場合、殺菌工程を経て無菌充填されることが現在では一般的であり、また乳製品も多くの場合(脱脂粉乳のように冷蔵を要しない安定した形質のものもあります)、生乳以上に冷蔵保存に適した製品形態となることから、生乳に比べ安定した状態で一定の期間(商品形態によって賞味期限等は異なる)保存管理しやすい状態にする必要があります。

 また、あまりに当たり前過ぎて、逆に思いがけないことかもしれませんが、生乳は繊細な品質管理を要する「液体」であり、貯蔵といっても、その辺りに置いておくことはできません。必ず冷蔵する仕組みを伴った「何らかの容器」に入れる必要があります。生乳経済のうえでは、大型のタンクがその貯蔵単位となりますが、これには常に「容積」の制約があり、容量を超えて入れることはできません。生乳が余っている時に、タンクに余剰生乳が残ると、次の日に乳牛から新たに生産された生乳は「入るスペースがない」という状態に陥ることになります。また生乳の物流の観点では、輸送車両のタンクを可能な限り満度に生乳を積載することが最も効率的であり、タンクの容量に満たない量の生乳を輸送することは、「空気」を運ぶことに輸送費をかけるようなものにもなります。また生乳の品質の点でも、輸送中に生乳がタンク内で大きく波打つような空間があると、タンク内で乳脂肪分(クリーム分)の分離を促す問題があり、輸送においては、出来る限りタンク内で生乳が波打たないような繊細な配慮も必要とされています。

 以上のように、生乳という原料畜産物は、流通過程で「冷蔵」と「容器」の制約の下で、鮮度の問題から「遅滞なく物流する」ことが、品質や食品安全性の観点から、常に求められています。生乳の物流にはタンクを中心に見た時、「入口」と「出口」を経る乳量のバランスの関係において、タンクの容量を限度とした一定の均衡(バランス)が必要であり、つまり「滞留無く流れる」ことが死活的に重要となるわけです。


2.生乳が余ったとしても、搾乳を止められない酪農家の現実

 よく言われることですが、コメやタマネギやジャガイモなどのように、保存の効く耕種農産物とは異なり、酪農では母牛が泌乳期にある間は、日々、止まることなく搾乳をしなければなりません。例えば生乳が余っているからといって、「牛から乳を搾るのを減らせばよいではないか」と思う人も多いかもしれませんが、それでは牛が「乳房炎」という病気になってしまいます。

 乳房炎の牛から搾った乳は、家畜衛生上の問題として、出荷の対象外となります。また重度の乳房炎になった牛は、その後の乳質が著しく低下したり、牛の乳房の機能そのものにダメージを負うため、酪農経営の経済性の問題から、廃用を迫られることにもつながっていきます。比較的軽症の乳房炎の場合、投薬などで治療も可能ですが、その場合、投薬した薬品が乳のなかにも残存してしまうため、生乳出荷のために飼養する一般の乳牛とは一定の期間、区別して管理され、病状を悪化させないための搾乳は行ないますが、乳房炎の牛から搾った生乳は廃棄されます。

 生乳の出荷販売を生業とする酪農家は、コストをかけて調達した飼料を牛に給与して、収穫物である生乳を得る訳ですが、上記のように搾乳のために飼っていた牛を、需給上の都合や病気で処分したり、一定期間出荷できないなどの事態を招くことは、当然ですが、酪農家にとって、決して小さくはない経済的ダメージを伴う問題になります。


3.需給調整の取り組みとして、酪農家ができることとは何か

 酪農家の段階でできる最も有効かつ基本的な需給調整手段とは、どういうものなのでしょうか。

 生乳が足りないときにできることとは、「牛の数を増やす」、あるいは牛のお乳がよく出るように「飼料を工夫する」というものです。しかし飼料での調整は、酪農家にとって、飼養管理の腕の見せ所ではありますが、あくまで牛の産乳能力や体調とも相談しながらの取り組みであり、無理をすれば牛の健康を損ねるリスクもあります。

 逆に生乳が余っている時にできることとは、「牛の数を減らす(廃用)」というものです。牛を減らすということは食肉用として出荷したり、病気になった牛や1頭当たりの搾乳量が他の牛より低い高齢牛や低能力牛を廃用(と畜処分)することです。しかしこれは酪農家にとって心理的にも経営コスト的にも、小さくはない負担や損失を伴うものです。

 酪農家の段階における生乳需給調整の特徴として注目すべきは、「牛の数を減らす」ことには「即効性がある」ということです。牛を処分すると同時に生乳生産が減少するからです。しかし逆に「搾乳牛の数を増やす」のは長い年月を要するものとなります。生乳が母牛の泌乳期にのみ生産可能なものであるため、生乳生産を増やすためには、子牛を産めるまで、言い換えれば子牛を大人に育てるまで期間が必要であり、さらに妊娠期を経て、出産するまで、概ね3年間ほどの期間が必要(酪農乳業界では「ミルク・サイクル」と呼ばれます=参考・雪メグHPの「ミルクサイクル」解説)になるためです。


4.「食肉市場の原理」が生乳生産の回復に与える影響

 最近の生乳需給において、とくに酪農界の課題になっているのは、生乳の増産です。国内の生乳生産量の不足から、バター不足が続いた近年、乳価の引き上げも行なわれていますが、生乳生産の回復には時間がかかっています。これはなぜなのでしょうか。これまでに述べてきた「酪農家段階」における需給調整機能が、酪農の現場でどのようなことになっているか、最近の状況を見てみましょう。

 以下の話は、生乳の増産が求められる情勢にありながら、乳価が少し上がれば酪農経営が単純に改善するというものではない現状に関するものです。見るべきは、酪農の経済活動が持つ奥行きの深さです。

 牛の頭数を増やすのは決して単純ではなく、搾乳できるまでに、最短でも概ね3年間近くかかるという話をしてきましたが、それに加えて難しいのは、搾乳牛の増加ペースにさらなる影響を与える外的要因として、個々の酪農家の経営状況との兼ね合いから、「食肉市場」の影響を受けるというポイントがあげられます。 つまり酪農家とは単に生乳を生産するだけの産業ではなく、肉用牛資源の生産も担う重要な産業となっているためです。

 酪農家が乳牛に種付けする場合、オスとメスは通常は半々の確率で生まれるものであり、基本としてはオスの子牛は食肉向けに出荷され、メスの子牛は搾乳用の経営資源として手元に残したり、他の酪農家に売却することになります。

 しかし実態はより複雑であり、人工授精技術や受精卵移植の発達によって、乳用のホルスタイン種の牛に、肉用の黒毛和牛の受精卵を移植し、和牛の子牛を生ませるということも、すでに一般化しています。これによって母牛は搾乳できる状態になりますが、和牛を産んでしまっては次の世代の搾乳資源は確保できません。また乳牛に和牛を直接交配して交雑種(肉用牛)を生産するのはもっと一般化していますが、この場合も同様に、次の世代の搾乳資源となる後継牛は確保できません。

 平成28年現在の畜産情勢は、和牛の市場価格は極めて高い水準での取引が続いており、近年の酪農経済に様々なアクシデントや逆風が伴った影響(注=この概要は参考解説として別掲)から、経済的に疲弊感を強めた酪農界にとって、和牛市場の活況には大きな経済的魅力があります。また和牛など食肉用の牛の生産体系には、子牛を一定の健康体にまで育てる初期の「育成段階」と、肉質を含めて肉牛の付加価値を向上させるための飼養期間となる「肥育段階」がありますが、酪農家から肥育農家に子牛を出荷すれば、酪農家にとっては搾乳に供する乳牛よりも相対的に短期間で出荷・販売できることになるため(酪農家の経営形態によっては肥育までを行なうケースも多くあります)、搾乳牛を育てるよりも早く、しかも近年の食肉の高値で大きな利益を獲得できることが魅力になるわけです。肉牛を最終的に食肉として出荷するまでに要する期間は概ね30カ月間ほどかかりますが、酪農の場合は同じような期間をかけて乳牛を大人にしたあと、やっと生乳を搾れる訳で、平均でその後3年間ほどの搾乳期間を要して経済活動を行なう訳ですから、経済物として換金するまでの「時期の利益」は大きな違いがあることになります。

  参考①=和牛(肉専用種)と乳用種(食肉出荷用の乳雄牛)の収益性の違いはこちらをご覧ください。
      
  参考②=搾乳牛1頭当たりの収益性については、農水省の「牛乳生産費」統計調査という資料があります。


5.乳牛の頭数が簡単に増えないのはなぜか

 酪農家に経済的余力があるなかであれば、当然のことながら、自身が酪農を継続するうえで必要な「後継牛(搾乳牛)」を確保することの優先順位は高くなります。しかし肉牛の価格が高騰する大きな収益機会となっていたり、酪農家に経済余力が乏しい環境の下では、「背に腹は代えられぬ経営判断」として、高値で早く収益をあげられる「交雑種」などの肉牛の生産が重視されることになります。とくに酪農の生産コストが北海道より高い都府県では黒毛和種の交配率が高く、また近年では北海道でも、交配率に上昇傾向が見られます(参考=乳用牛への黒毛和牛の交配率)。

 このことは、例えば100頭のメスの乳牛がいたとすると、潜在的には乳牛のメスとオスを50頭ずつ産む産業基盤がありながら、そこに和牛を40頭(40%)産ませてしまうことで、乳牛資源は残る60頭の半々(オス30頭、メス30頭)になるという現実を意味します。現在は雌雄選別精液を生産してメス牛の出生比率を人為的に上昇させる技術開発にも努力されていますが、この残る60頭全部にそうした技術を活用しても、出生比率は現在の技術水準では、オス28頭、メス32頭ほどの差を生むにすぎません。しかし雌雄判別受精卵移植には受胎率(妊娠する比率)が低くなるという技術的課題も指摘されている現状もあり、技術の進展度によって、その効果は絵に描いたように実現しない現実もあります。

 また極めて優良な遺伝資源を持つ牛を潤沢に所有する酪農家のなかには、自身が後継牛として確保する一部を除き、酪農家相手に搾乳後継牛を販売することをビジネスモデルとする酪農経営もあります。しかし国内酪農全体のなかで搾乳後継牛の生産・確保がうまく回転していない現状から、搾乳用の乳牛市場も空前の高騰を見せている状況にあり、「すぐに搾れる牛が欲しい」という酪農家さんにとって、なかなかセリ市場で手を上げられない値段(参考=ホクレン家畜市場集計)となっている現在の生産事情があります。
  
  それならば、すぐに搾乳できる牛を「輸入」すればよいではないか、という議論は業界のなかからも当然の考え方として出ています(参考=Jミルクの緊急政策要望)が、現実にはそう簡単ではありません


6.酪農経済に影響する「市場原理」とは、「生乳市場」の原理だけではない

 規制改革等の議論では乳価が上がっても単純に生乳生産が回復しない現状を見て、「酪農家に経済原理が働いていない」と論評する自称・専門家も(なかには「素人」を公言して、産業を混乱させている自覚がない人も)いるようですが、まじめに酪農経済の勉強をしていない極めて一面的な評価です。単純に乳価が上がっただけでは生乳生産の回復が進まない現状には、上述してきたような「食肉市場の原理」の影響が強くあります。つまり生乳市場とは別の「食肉の市場原理」の影響を意図的に無視する暴論です。

 個々の酪農家は生乳に限らず食肉でも「市場動向」を十分に分析のうえ、経営マインドを発揮して、自身の経営のバランスシートを良好にするために、至極当然の経営判断を下しています。酪農はもちろん、乳牛を飼い、生乳を生産することが基本の産業ですが、その農家経営を現時点でもっとも安定的に行なうために、肉牛市場も視野に入れた、複合的なポートフォリオを組んでいる訳です。

 しかし現状では、近年の様々な外的要因のなかで疲弊した酪農家の経営基盤の回復のため、眼前にある値の高い肉牛市場からの「収益」の獲得が、平時以上に重視されたポートフォリオを組む農家が多い状況と言えます。このことは酪農経営の改善に大きな寄与をもたらしていますが、「生乳増産のため」には逆に障害となっている悩ましい構図があると言えるでしょう。

 ここであらためて考えていただきたいのは、このブログのテーマに照らして、「生乳生産の回復が今、なぜ遅れているか」を考えた時に、ここで解説した現状を重ね合わせて考えると、果たして「指定生乳生産者団体制度」は関係あるのでしょうか、ないのでしょうか、という視点です。

 今春の規制改革会議による「提言」では、「バター不足(生乳不足)」の原因が「指定生乳生産者団体にある」との見方から、「指定生乳生産者団体制度の廃止」を求めた内容ですが、現在なぜ生乳生産が回復しないのか、その理由を考える時に、上述のように「指定生乳生産者団体制度」に原因を求めることには「相当な無理がある」と言えます。

  産業的に厳しい需給調整(増産・減産の双方向ともに、という意味です)を要する局面で、酪農家からいつも発せられる言葉は「生乳は水道の蛇口をひねるように、需給調整ができる品目ではない」というものです。その理由はこれまで述べてきたように、減らすことは物理的に簡単でも経済ダメージが極めて大きく、逆に増やすことには日数が最短でも概ね3年かかる「遅効性」とともに、酪農家が多面的に担う「肉牛供給者」としての役割から、「肉牛市場」の影響も受けるという難しさがある訳です。 


7.本稿のまとめ(生乳の合理的な「需給調整」とは何か)

 以上のように、生乳の需給調整を、酪農の生産段階で行なうことは、減産は迅速に可能であっても酪農経営に与えるはダメージが大きく、また増産は本来的に時間を要し、外的な経済要因の影響も受けるなど、酪農という産業には市場動向に対する迅速かつ柔軟な対応が困難だという、産業上の「特性」があります。

 一方、生乳とは数々の牛乳乳製品を製造するための単一の「原料畜産物」ですが、生乳を主な原料として作られる 牛乳やヨーグルト、バターや脱脂粉乳、チーズなどの牛乳乳製品は、クリームや脱脂乳などの主に原料用途の中間的な生産物も含めて種類が極めて多いことも重要な「特性」となります。こうした多様な牛乳乳製品は市場において、それぞれの品目で日常的に販売の増減変化を生じており、当然のように、その日その日の販売動向に合わせた製造調整が、主に乳業側の努力によって日常的に行なわれています。

 そうした最終製品の市場動向に合わせて、原料である生乳の需給調整を迅速かつ弾力的に行なうには、生産調整が難しい生乳で慌ただしく調整を行なうよりも、むしろ増減を繰り返す各種製品の「用途の違い」に着目した、「用途間の配分調整」で可能な限り対処していくことの方が、柔軟な対応がしやすい訳です。その用途間調整のなかで、生乳の特性上、酪農にとって非常に重要な視点となるのは、日持ちのする乳製品と、鮮度性が重視される牛乳などの、「消費の足の速さの違い」に着目した配分調整となります。

 需給調整を行なううえでは、生乳を使う乳業側からすると、本来の必要量よりも、生乳生産量が若干多いぐらいが、最も余裕を持って調整しやすいですが、生乳市場本来の需給に基づく価格形成要素を考えると、必要量よりやや足りない程度が、酪農家にとっては最も乳価の上昇を期待可能で、生乳が売れ残る(廃棄)リスクも低い環境といえます。同様にこの生乳市場の需給原理を消費者側の視点から考えれば、有り余るほどの生乳がある方が、より低価格の生乳を期待できることになりますが、この場合、酪農家の利益とは対立する関係にあるだけでなく、「売れ残るリスク」が増大するため、経営環境をより不安定にすることになります。こうした市場のなかで、酪農家、乳業者、消費者など様々な立場からの要請に対して、その時々の状況に最も「バランスのとれた状況」を目指すことが当然必要になります。

 牛乳乳製品は、人により好みの差があるとはいえ、すでに日本の「基幹食品」であり、消費者にとって値が高すぎず、酪農家にとって値が安すぎず、また捨てるほど余らず、深刻な不足を起こさない「安定した価格・需給」が強く求められる産業です。

 そのうち需給調整において、「生乳の需要総量に対して過不足を生じる場合」には、酪農家の段階で増産・減産の調整が最終的には必要な課題になります。しかし大幅な増減対応に困難の多い酪農に対して、過度に需給調整負担をかけないことが、生乳の安定的な生産・供給環境の維持には重要で、そのためには、総需要に対してできる限り過不足のない生乳生産の下で、用途間調整を中心に、その時々の市場情勢に対応し「生乳が多すぎず、少なすぎない環境」を目指していくことが、需要側にとっても、供給側にとっても、最も合理的なものといえます。

 一連の酪農の規制改革をめぐる議論では、中央酪農会議と指定生乳生産者団体を中心とした「計画生産」が、旧社会主義下の「計画経済」と同義、との意見もあります。しかし「計画生産」と呼ばれているものの正式な名称は「計画生産目標数量」、つまり「目標」です。基本は時々の需給調整上の要請に対し、増産努力で応ずるか、生産抑制努力で応ずるか。その「方向性」を酪農界のインサイダーにとどまらず、乳業者、実需者も含め内外に示すものです。この目標の進捗状況に関しては、毎月の実績管理がなされ、目標との乖離状況が逐次、酪農界にアナウンスされており、年度の目標に対して、現状の生乳生産が多いのか、少ないのか、または目標から外れていく生産トレンドか、近づいていくトレンドかの「目合わせ」を行ないつつ、産業活動が営まれています。

 ここまで述べてきたように、生乳は増産も減産も簡単な問題とはならず、需給上の想定を1%程度外れるぐらいならば誤差の範囲ですが、2%以上乖離してくると、様々な生乳需給上の問題を生じてくる産業ともいえます。国内の生乳生産量は1年間で約740万㌧にのぼり、1日あたりには2万㌧の生乳が国内を行き来しています。生乳生産の1%とは7万4000㌧、2%は14万8000㌧ですが、これを10㌧積載の生乳輸送車両で換算すると、1%で年間7400台、2%では年間1万4800台。㌔㌘当たりの飲用乳価を115円として換算すれば、1%で85億1000万円、2%では170億2000万円という規模になります。それらを1日当たりで見れば1%が20台、2%が40台という計算で、同様に飲用乳価換算では2300万円~4600万円ということになります。

 当然の事実として、乳業側が保有する工場の処理能力にも「限界」はあり、能力を超えて製品加工を行なうことはできません。また季節的な需給変動も酪農乳業の特徴で、酪農では、とくに都府県の場合、夏の暑さで乳牛が体力を消耗すると乳量は減少します。また需要側では「学校給食用牛乳」の影響が大きく、飲用牛乳需要は年間約400万トンありますが、その約1割を学校給食用牛乳が占めています。この需要が特異なのは、学校には「夏休み、冬休み、春休み」があることで、もちろん土日や祝日もそうですが、合計すれば1年のうち5~6カ月は需要のない日があることになります。スーパーマーケットで土日祝日に牛乳の特売が多いのも、これを調整する市場側の対応ですが、長期の休みでは特に、牛乳以外の用途へ、生乳を振り向けなければならない訳で、それを酪農側から主体的に販売調整するのが「指定生乳生産者団体」です。

 こうした産業規模のなかで「生乳に行き場がない」という事態が起こると、産業の混乱がどれほどのものになるでしょう。指定生乳生産者団体の仕事とは、時間が経てば確実に品質が劣化する生乳に、「確実な行き場」を確保し、場合によっては、価格の安い乳製品向けに回してでも、全量を販売しきる、契約上の「責務」があります。そのかわり、契約に際しては「A農家だけ価格の高い飲用向けで、B農家だけ価格の安い乳製品向けで」という、えこひいきのような販売を行なわず、価格の安い乳製品向けで販売した差額リスクを、同じ指定生乳生産者団体を通して販売するすべての農家の間で、出荷乳量に応じ「均等にリスク分配する」取り組み(それは「プール乳価」と呼ばれています)を進めています。加工原料乳生産者補給金制度は、この「乳製品向け」の生乳に対し、交付単価と数量をそれぞれ限定して、持続的な酪農経営がなされるよう支援している制度です。

 いかなる製造業でも、当然のように、「生産計画」や「生産目標」があるものですが、調整のひときわ難しい酪農で、そうした「最もバランスのとれた需給環境」を計るベンチマークとして自主的な目標や計画を共有することが、どうして酪農だけ「旧社会主義的経済だ」と言われねばならないのか。逆にこうした目安もなく、どうやって安定的な生産環境を確保できるのか。指定生乳生産者団体制度に勝る方策があるならば、酪農家はずっと前から、とっくにそうしているに違いないと思いますが、「制度の抜本的改革」を言うならば、その具体的な良策はあるのか。本来議論されるべき問題は、そういうことなのではないでしょうか。
(おわり)










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指定生乳生産者団体制度の改革論議に「よく出る言葉」について

 酪農の指定生乳生産者団体制度をめぐる改革論議のなかで、「よく出る言葉」について、解説を試みた原稿が会員より寄せられましたので、以下に掲載します。内容は当ブログの意見・補論とも一部重複するものがありますが、より詳しく内容理解を目指す方々には、是非、ご一読をお勧めします。


1 「需給調整」とはどのようなものか

 規制改革会議の委員を含め、一般の方々が最も理解しにくいのは、腐敗しやすい液体である生乳の需給調整の問題ではないかと思います。
 腐敗しやすい液体である生乳は、酪農家が搾乳した後すぐにバルククーラー(生乳の冷却・貯蔵機器)で約4℃程度まで冷却されます。
 冷却された生乳は、日々あるいは地域によっては隔日でミルクタンクローリーにより集乳(個々の酪農家の生乳は合乳)され、ストックポイントであるクーラーステーション(大規模生乳貯蔵施設)や乳業工場に搬送され、この過程でさらに合乳されます。
 そして腐敗が進む前に、できる限り早く牛乳やバターなどの乳製品に加工され、消費者の下に届けられます。

 需要は日々の天候や気温により大きく変動しますし、供給(生産)も同様に天候や気温により変動します。牛乳の売れ行きは平日と休日では雲泥の差があります。乳牛は暑さに弱いため、夏になると生産が減少し、逆に冬から春にかけて生産は増加します。一方、牛乳の需要は夏に増加し、冬は減少します。需要と供給(生産)の波が逆になっているのです。学校給食は牛乳消費の1割強を占めますので、夏休みや冬休みなどで学校給食がなくなると、牛乳の需要は一気に約2割も減りますし、逆に休み明けには2割も増加します。また、地域により生乳の不足する地域や過剰になる地域が流動的に変動します。

 したがって、指定団体が中心となって、こうした様々な要因による需給の変動を日々調整しながら、生産された生乳について、飲用牛乳を余らせることなく必要な量だけ供給し、飲用牛乳に回せない生乳は加工(製品の保存期間が長い乳製品向け)に回すという調整が、全国の各指定団体と全国連(全農、全酪連(全国酪農業協同組合連合会))、そして全国の乳業メーカーとの連携により、コストの最小化を図りつつ日々行われています。こうした需給調整が行われるため、原則として、ある地域で生産された生乳がどこに送乳されて、どこの工場で牛乳又はバターなどの乳製品に加工処理されるかについては、固定的ではなく常に流動的であるという特徴があります。

 その上で、乳製品となったバターや脱脂粉乳の在庫水準をみながら、年間のあるいはもっと中長期的な生産見通しを踏まえた需給調整も行われています。在庫水準をにらみながらの需給調整は、基本的には生産者団体による需要を踏まえた生乳の計画的な生産と、販売見込み数量なども勘案しつつ、行政による国家貿易による乳製品の輸入により行われています。この運用さえ適切であれば、バターの不足問題は起こりませんが、一昨年はその運用が必ずしも十分に適切ではなかった中で、バターが不足気味であるとの報道が行われたことから、消費者の買い急ぎがおこり、バター不足問題が顕在化したものと思われます。

 より厳密に言えば、生産者には異論があるかもしれませんが、生産者と乳業メーカー間の価格交渉の際にも、コストのほか需給状況が勘案され、価格が決定されています。また、行政による加工原料乳生産者補給金の交付対象数量、補給金単価及び関連対策の決定の際にも、需給事情が勘案され、例えば、生産が不足していると考えられるときには、増産のシグナルが生産者に送られるように運用されています。


2 「需給調整」生産者及び指定団体の対応

 こうした中で、増産への対応については、個々の酪農家は、短期的には給与する飼料の工夫などの飼養管理の改善により、中長期的には増頭を基本とした規模拡大などにより対応することになります。しかし、そのためには資金の確保ばかりでなく、畜舎の増築の余地、飼料作物生産のための農地の確保、家畜排せつ物の処理が適切に行え、近隣住民との間で問題が生じないことなど、とりわけ都府県においては多くのハードルを乗り越えなければならないので容易ではありません。

 また、自ら経営内で増頭するためには、授精し、妊娠し、2分の1の確率で雌子牛が生まれ、その雌子牛が成牛になるまで育て、その牛に授精し、妊娠し、出産してはじめて生乳生産が開始されるため、最低でも3年近くかかります。自分で育てずに初妊牛を買ってくればいいといっても、それではA農家で生産する予定であったものがB農家で生産することになるだけで、全体としては増産には貢献しません。

 では、輸入ではどうかというと、BSEなどの伝染病の発生により、主要酪農国である北米やヨーロッパからは輸入できません。乳牛を輸入できる国は、乳牛の産乳能力の低いニュージーランドなどしかないため、ほとんど行われていません。

 減産が必要な場合は、搾乳牛の淘汰くらいしか有効な方法がありません。搾乳牛を淘汰すれば、その分だけ収入が減ることになります。平均的には、1頭当たりで100万円近い減収になりますので、生産者はなかなか踏み切れないというのが実態です。巷間言われているように、水道の蛇口を閉めるようにはいかないのです。

 指定団体は、その会員である農協等を通して管内の生産が計画に沿った生産になっているか管理・調整することになります。増産を抑制する場合又は減産が必要な場合、生産枠による管理や搾乳牛の淘汰が行われます。

 EUでは1984年から2015年まで国別の生産枠(クオータ)がありましたし、カナダでは、現在でも生産者間でクオータを売買しながら生産を行っています。搾乳牛淘汰についても、需給緩和による価格の回復を目指して、米国では2003~2010年に実施されましたし、EUでも2015年4月からのクオータの廃止等に伴う価格の低下に対応して、現在、その導入が検討されています。
 規制改革会議において、10年近く前に実施したかつての減産に関連して指定団体が批判されていますが、減産の際の生産枠管理や搾乳牛淘汰は、何も日本に限ったことではないことはご理解いただけたことと思います。とりわけ輸出競争力のない日本にとっては、やむを得ない対応だと言っていいでしょう。


3 「需給調整」輸出の可能性、メーカー及びアウトサイダーの対応

 輸出に関しては、規制改革会議の提言では指定団体関係者の発言として、「一部の指定生乳生産者団体からも、現行制度が生産力伸び悩みの原因となっているため、今後は生産枠による管理をやめて、将来的に供給量が国内需要を上回れば、輸出による調整を志向しているとの意向が示されている」との引用がなされています。しかし後に明らかになった議事録概要を見ると、ここには2つのやや作為的ともいえる引用があります。

 議事録全体を通して読めば、発言者の趣旨はわかるはずですが、正確には、「現行制度が生産力伸び悩みの原因になっている」とは言っていませんし、「供給量が国内需要を上回れば、輸出による調整を志向している」とも言っていません。

 他のところでは、生産量の伸び悩みについて、ここ数年、所得が十分に確保されていないことが原因である旨言及していますし、供給量が国内需要を上回った場合については、基本はチーズの生産を増やすことにより対処すると言っており、現状からはほとんど考えがたい事態として、それでも余った場合には輸出を考えるが、価格が安くなるので、その際には計画生産をなくすことができるかわからない旨答えています。

 これらの2つのやや作為的ともいえる引用は、指定団体制度を廃止するという結論に導くために、論旨があいまいになる「口頭での発言」を利用して、都合のよいところだけを引用し、発言者の本当に言いたい点は引用していないように見受けられます。この点については、多くのヒアリング対象者が、このような不満を抱いているとも聞いています。
 
 さて、生産過剰基調の場合、乳業メーカーは生乳の受け入れ拒否を行うこともできますが、基本的には全量受け入れを行っています。そして過剰在庫を抱えることにより、乳業メーカーは過剰な金利倉敷料の負担を行うことになります。

 また、平成18年に生乳が廃棄されたことがクローズアップされていますが、あの際は日本全体の乳業工場における乳製品の処理能力を超えて生乳が生産されたために起きた、真にやむを得ない廃棄でした。指定団体が予防的な経営判断として廃棄させたわけではなく、「生乳の行き場が無く、捨てる以外の選択肢がない」ところまで追い込まれた、やむを得ない事情であったことを理解する必要があります。このような場合、特定の生産者が不利益をこうむらないよう、指定団体管内の全酪農家で、その生産量に応じて均等に負担することになります。

 では、アウトサイダーはどのように対処しているのでしょうか。基本的に、すべての生乳を飲用向けで売り切る対応しか取れないため、現状では生乳取引価格の引き下げにより対処しています。これはわずかな生産シェアしか占めていないためにできる対応であり、全国の酪農家・指定団体が同様な対応を行った場合には、タダでも引き取ってもらえないでしょう。

 輸出競争力のない日本では、こうした価格による対応や輸出が困難であるため、指定団体による生産量の調整により対処せざるを得ないわけです。


4 部分委託を無制限に認めることとしたらどうなるか

 仄聞するところによると、規制改革推進会議の委員の1人が、「生乳の部分委託を無制限に緩和すべきである」との主張をしているとのことです。これが本当だとすれば、これまでの提言をさらに一歩進め、生乳流通を全くの無秩序な状態にせよと言っているのに等しい主張であると考えます。つまり、酪農家は、自分の都合でどの組織にどれだけの生乳を販売委託してもよく、あるいはどこの工場に生乳を直接販売してもよいということになります。

 一見、酪農家にとってメリットの大きい仕組みのように思えますが、本当にそうでしょうか。あくまで仮定の話ではありますが、よく考えてみましょう。

 まず、酪農家への影響です。本ブログの巻頭にある「規制改革実施計画の推進に対する意見」や補論にも書いたとおり、そのようにすれば、道北や離島などの消費地の飲用牛乳工場から遠くにある生産者ほど不利になるため、そのような地域での生産は衰退に向かうでしょう。他方、消費地に近い都市近郊酪農にとっても、価格の高い飲用市場に生乳が集中することから、飲用乳価は低下するものと思われます。

 次に、新たな組織を含めた指定団体等への影響です。酪農家は所得の最大化を目指して、集乳・販売する組織に対して、乳価の高い飲用向けの生乳として可能な限り販売するよう、委託するでしょう。他方、飲用向けとして販売しきれない生乳については、既存の指定団体くらいしか受け手はないでしょうから、不需要期に限り、生産された生乳の相当部分を既存の指定団体に委託しようとするものと想定されます。

 この結果、生乳の集乳・販売組織は2極分化し、既存の指定団体はいやがうえにも加工原料乳専門の集乳・販売組織へと徐々に移行していくことが考えられます。しかし、上記のように特定の季節だけ生乳を受け入れるということは言うに及ばず、そもそも加工原料乳は年間の生乳取り扱い数量が大きくぶれるため、経営の維持が困難になるか、手数料を大幅に引き上げない限りこのような加工原料乳の取り扱いに特化したような指定団体は存続し得ないものと思われます。仮に存続しえたとしても、多くの参加者による無秩序な生乳流通の中では、生乳需給の調整を行う主体はなくなります。

 もう一つ、困難な問題があります。そもそも、酪農家が生乳の委託先を自由に変えられるようでは、組織にとって生乳の集乳・販売数量が確定できません。したがって、販売数量の裏づけなしに取引乳価の交渉をしなければならないこととなりますが、価格は量と一体的なものであり、交渉が成立するかどうかはやや疑問であると考えます。

 乳業メーカーへの影響も考えてみましょう。乳業メーカーには、多数の組織が可能な限り多くの生乳を飲用向けとして販売しようとして集中すると想定されることから、飲用向け生乳は買い手市場となり、価格には大きな引き下げ圧力がかかることになるものと思われます。

 他方、加工原料乳については、受け入れが不安定になるばかりでなく、飲用として販売できなかった品質の劣化した生乳が流れ込む可能性もあり、安定的で高品質なバター等の乳製品の生産が困難になることが想定されます。この結果、消費者にも悪影響が及びかねません。

 仮定の置き方いかんで、さらに様々なことが想定されますが、推測はこの程度にしておきたいと思います。ただし、はっきりしているのは、指定団体の主要な機能である需給調整、生乳流通の合理化、生乳取引交渉力の強化のいずれも維持されなくなるであろうということです。


5 インサイダーとアウトサイダー

 これは単なる業界用語です。一言でわかりやすく理解できるように、便宜的に、指定団体による生乳共販に参加する酪農家を「インサイダー」と言い、参加せずに自由に生乳を販売する酪農家を「アウトサイダー」と言っているにすぎません。規制改革会議における議論の中では、この業界用語自体を問題視する指摘もありましたが、もっとわかりやすい適切な用語があるのならば、幼稚園のような「さくら組」でも「ばら組」でも、使いたい分類用語を使えばよいだけの話です。

 インサイダーとアウトサイダーの関係が問題視されるときに決まって指摘されるのが、生乳流通のほとんどを指定団体とその傘下の生産者(インサイダー)が担っているという事実です。まるで不正なことでもしているかのように、ほぼ独占しているという指摘がなされます。しかしその理由は極めて単純で、個々の生産者による自主的な選択の結果にすぎません。酪農家が生乳をどこに販売しようと自由なのです

 乳価の高い飲用向けとして販売できない場合のリスクをとってでもハイリターンを目指すならば、指定団体の傘下に入らなければよいわけです。つまり、その方が儲かると考える生産者が、アウトサイダーという経営のあり方を選択しているだけの話です。他方、ハイリターンよりも経営の安定や互助の精神を重視する生産者は、指定団体を通して生乳を出荷しています。その結果として、「生乳の95%以上は全国に10ある『指定団体』を通じて流通」することになっているということです。

 アウトサイダーの生産者が飲用向けの高い乳価を享受できているのは、皮肉にも、指定団体による用途別の需給調整のお陰で、他の用途よりも飲用向けの乳価水準が恒常的に高い市場が創出されているためです(注:飲用向け約115円/kg、加工向け約75円/kg)。
 しかも、指定団体傘下の生産者が、飲用に仕向けられなかった生乳について、加工原料乳の価格面での不利性や過剰時の生産調整(減産)のリスクを引き受けているからでもあります。したがって、規制改革会議の中で議論されているように、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者(アウトサイダー)が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとし、その新たな組織が飲用牛乳工場に近いなどのメリットを活かして飲用向け市場に割り込めば、そのしわ寄せはすべて既存の指定団体とその傘下の生産者(インサイダー)が受けることになります。

 提言のなかに、指定団体について、「生産者から信頼される実力があればこそ、補給金の取扱などの制度的な裏付けなしでも十分にその強みを発揮できるはずである」というコメントが記載されていますが、制度を変更しても既存の指定団体が需給調整を維持してくれるであろうという期待(甘えといってもいいかもしれません)を前提に、新たな組織にはその負担もなく補給金を交付するという優遇制度を作ろうとしているわけです。これが公的な制度設計として適切であるか、議論が必要なことは言うまでもないことだと考えます。


6.バター不足問題の現状

 規制改革会議において指定団体制度に関する議論が開始された理由は、一昨年の暮れにバターが不足したことが発端となっています。バター不足と指定団体制度が無関係であることは、3「目的とは真逆の結果が予想されるという点」の補論で詳述したので、ここでは繰り返しません。ここでは、指定団体制度を改革せずともバター不足の問題は既に解消していることについて、事実関係を基に簡単に説明しましょう。

 まず、9月27日に開催された農林水産省主催の「乳製品需給等情報交換会議」で配布された資料を基に、バターの在庫水準についてみてみましょう。平成28年7月末の期末在庫は、バターの需給について問題なく対処できた昨年に比べ141%(約28千トン)の水準となっています。乳業メーカー等13社(シェア約96%)による小口業務用のポンド、シートバター等の在庫は156%、家庭用は96%とほぼ前年並みとなっています。

 一昨年は小口業務用の在庫が不足したため、街のケーキ屋さんなどが家庭用バターを買いに走ったため、小売店の棚からバターが消えてしまうという現象が生じましたが、問題の発生しなかった昨年にもまして今年は小口業務用バターの在庫が十分に確保されているため、全く心配はなさそうです。むしろ、関係業者からはバター在庫はだぶつき気味であるとの言葉が聴かれます。

 最近の輸入バターの売渡入札の状況をみると、連続的に不落が発生する状況となっており、このことを裏付けています。農林水産省は9月27日にバター4千トンの追加輸入を発表しましたが、これはあくまで年明け以降の需給状況を見据えた念のためのものであり、現在でもまだ約4千トン近い輸入バターの買い手がいない状況です。量販店でも在庫が十分にあるためか、月末発注により日付の新しいバターが要求される状況だということです。

 9月27日に開催された「乳製品需給等情報交換会議」の議事録によると、スーパーマーケット関係者の発言として、「小売店では、陳列量が少なくてすむショーケースになってきているので、一時的に棚が空になることはあり得る。このため、業務筋の大量買いを防ぐために「お一人様一つ限り」をつけている可能性がある」と記載されています。こうした観点からも、「お一人様一点限り」のような店頭告知が、バター不足に起因するものなのか、販売促進が目的のものであるのか、検証が必要だと考えます。

 以上のとおり、バター不足を解消するために指定団体制度を改革するというならば、バター不足は既に解消しているので、指定団体制度改革は必要がないということになってしまいます。また、上記のとおり、国家貿易による追加輸入の運用を適切に行えば、バター不足の問題は解消されるものであり、指定団体制度が関係していないことが理解していただけたものと思います。


7 計画生産と計画経済

 指定団体制度は「社会主義国の計画経済同然だ」という批判が閣僚からもあったと聞いています。仮に、酪農界に社会主義国並みの強制的な計画経済などというものが本当に実行できるのならば、現在の酪農の生産基盤の弱体化という問題は起きていません。本ブログにおいて縷々述べているとおり、生産と需要に影響を及ぼす要因は多面的であり、計画どおりにいかないのが酪農や牛乳乳製品の特徴であるともいえます。これは明らかに「計画生産」という言霊に縛られた、偏った心証評価ではないかと思われます。

 「計画」あるいは「計画的」というのは理想的な姿のことであり、それだけの供給を果たしていくという、いわば生産の目標であり、市場に対する約束のようなものです。しかし、酪農家のみなさんがいつも言うように、実際には生乳生産を増やしたくとも相手は牛なので水道の蛇口をひねるようにはい行かず、天気が変わるだけで牛の体調や草の質も変わって生産量は変動します。牛乳乳製品の全体的な需給状況を絶えず注視し、コントロールしながら、生産を増やしていく方向なのか、減らしていく方向なのか、そういう視点を酪農家と乳業者が共有し、行政による国家貿易の運用とも連携しつつ、最終的には消費者に安定的に牛乳乳製品を供給するためのものであるといえるでしょう。基本的には、酪農乳業関係者が不確実性の大きい需給情勢の見極めをするためのツールの1つであって、それを酪農乳業界挙げて注視しながら経済活動に取り組んでいるということです。


8 付加価値の創出

 国の加工原料乳生産者補給金制度は、指定生乳生産者団体にのみ、乳業者との間で生乳取引を行う際、生乳を用途別に区分して取引することを求め、認定された加工原料乳(バター・脱脂粉乳等向け及びチーズ向け)の数量に対し補給金を交付することとしています。

 用途別取引は、生乳取引の透明性を高めるとともに、原料として仕向ける用途別の乳価を合理的に決定する役割を持っています。指定団体にとっては有利販売を行う際の基準となる一方、乳業者にとっては製品の原料乳の価格として重要な意味を持ちます。制度発足当初に比べ、生乳の仕向け先が多用途化したことにより、コンビニスィーツ向けなどに生クリームの需要を創出したり、健康志向で市場が拡大するはっ酵乳向け取引がヨーグルトの需要を支えたりしています。

 このように、指定団体による用途別取引により、消費者の需要を喚起する商品開発が促されているといえます。

 例えば、北海道などで、酪農家が自家製造で手作りチーズなどを作る場合には、指定団体に出荷した生乳をチーズ向け乳価(約65円/kg)で買い戻すことができるため、指定団体への販売乳価(約85円/kg)よりも低い価格で自分の牧場で生産した生乳を使用できます。また、ジェラートを製造・販売する酪農家が増えていますが、指定団体への生乳販売の全量無条件委託を弾力化したことにより、このような自由な取り組みが可能となっています。

 最近、「NHKプロフェッショナル仕事の流儀(28年9月26日放送)」で、地方創生で全国から注目を集める“グルメ戦略“の寺本氏の取り組みとして、ミルクジャム用の生乳を手に入れるため指定団体を訪れる場面が取り上げられていました。指定団体は、経済効率性だけで判断するのではなく、生乳の価値を高める寺本氏の取り組みを支援する姿勢がありました。

 このように、現行の制度が商品開発を阻害しているどころか、酪農家の多様な経営展開や、酪農家による規模の小さい取り組みを後押ししているというのが実態です。その結果、多様な国産の牛乳乳製品の供給や地方創生の取組にも貢献し、消費者に対するメリットにもつながっています。

 規制改革会議の今春の提言によれば、指定団体制度を廃止し、だれもが指定団体のような新たな組織を自由に作れるようにすれば、消費者ニーズに応じた商品開発が促されるとの説明がなされていますが、差別化された特別な生乳を利用した商品を生産・販売することは、現行の制度の下でもできることです。そもそも新商品の開発は、この産業においては乳業が担っているという基本的な事実が忘れられています。新たな生乳販売組織が自由に作れるようになったとしても、生乳を集乳・販売することが本来の業務であり、消費者の需要を喚起する商品の開発を促すことにつながるとは考えられません。


9 生乳生産が伸びない理由

 近年の生乳生産は減少傾向を継続していますが、その背景には、指定生乳生産者団体が全国10団体に再編されて以降の、この15年程度だけをとってみても、生乳生産に負の影響を及ぼす様々な災害や、産業的なアクシデントなどに見舞われ続けてきたという事実があります。具体的に列挙すると、以下のとおりです。

・平成12年:雪印乳業による食中毒事故。
・平成13年:日本初のBSE発生の確認。平成15年末には米国でも確認。
・平成14~19年:歴史的な脱脂粉乳の過剰在庫と過剰在庫処理対策。18~19年は減産型の計画生産へ。
・平成19~21年:世界的な資源価格の高騰。飼料穀物価格は一時約3倍にまで高騰。
・平成22年:宮崎県での口蹄疫の発生。
・平成23年:東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故。
・平成25年~27年:TPP交渉参加から大筋合意。円安傾向への反転等による、国内への飼料供給価格の高騰。
・平成28年:熊本地震、北海道等における台風被害等。


 こうした中で、現在、一部の指定団体や単協の取り組みとして、生産者が自主的に、あるいは行政の支援を受けて、酪農生産基盤の強化に取り組んでいます。さらに、今後の取り組みとして、乳業による支援を基本とした生産者との連携による生産基盤強化のための対策が検討されているところです。

 生乳生産を増やすためには、究極的には搾乳牛の頭数を増やすしかありませんが、様々な制約がありなかなか伸びません。その理由をこれまでの説明なども参考に列挙すると、以下のとおりです。

・都府県の生産が伸びない理由は、土地条件の制約、畜産環境問題(近隣住民への対応、環境対策費が相対的に高くなること)、他の就業機会が豊富なことによる後継者不足などから、規模拡大が困難なこと。

・増頭するためには、授精、妊娠、雌子牛出産、雌子牛の育成、成牛になって授精、妊娠、出産、そして搾乳開始、までに最低でも3年近くかかること。

・肉用牛価格が過去最高水準にある中で、経営として所得の最大化を図るため、和牛を交配することによる交雑種の生産や和牛受精卵移植による和牛の生産はやむをえない選択であり、その結果として乳牛の後継牛が不足していること。

・輸入により対応しようとしても、BSE、ヨーネ病、口蹄疫などの伝染病により輸入可能な国が限られており、現状では、乳牛の産乳能力が低いニュージーランドと、8月25日に輸入解禁されたばかりのオーストラリアくらいしか考えられないこと。加えて、輸入検疫スペースにも限りがあるため、現在はほとんど輸入されていない状況であること。


 規制改革会議は、「酪農の生産・流通体制は消費者のニーズに十分に応えるものとはなっていない」、あるいは「指定体制度のせいだ」と言いたいようですが、以上に挙げた様々な要因のどこが、その主張に関係しているというのでしょうか。酪農乳業関係の実業者からは、その主張が「理解できない」という意見があふれています。









         
プロフィール

酪農乳業関連制度研究会

Author:酪農乳業関連制度研究会
 私たちは、規制改革会議による指定生乳生産者団体制度に関する提言等について、ある雑誌の特集に様々な立場から論考を執筆した者及びその特集内容に共感する有志です。
 特集では、それぞれに立場は異なるものの、一致して規制改革会議の運営の仕方や提言等について根本的な疑問を共有していることがわかりました。このため、関係者ばかりでなく一般の方々にも、私たちが何を問題としているのかを理解していただきたく、意見を表明することとしました。

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