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規制改革推進会議「新提言」もまた「不合理」かつ「理不尽」                              (当研究会の「意見」2016/11/17)

平成28年11月17日

規制改革推進会議・農業WGによる
「牛乳・乳製品の生産・流通等の改革に関する意見」に対する意見
― 目的とは真逆の改革を進めるものであり、検証は不可欠 -


酪農乳業関連制度研究会


 規制改革推進会議・農業ワーキンググループ(WG)は、11月7日付で「魅力ある牛乳・乳製品を作り出す酪農業の実現に向けた改革の方針」を公表するとともに、わずか4日後の同11日には、提言内容に関するろくな議論をした形跡もないままに、「牛乳・乳製品の生産・流通等の改革に関する意見」(以下「新提言」)を公表しました。私たち「酪農乳業関連制度研究会」では、2016年4月の旧・規制改革会議による提言に対し、9月4日付で、このブログ上に「意見」を公表しましたが、「新提言」を受けて、あらためてこの内容に対する考え方を示したいと思います。

 この「新提言」における、指定団体制度の見直しの観点からの主要なポイントは以下の2つです。
 第1点は、生産者が自ら自由に出荷先等を選べる制度とすること。
 第2点は、加工原料乳生産者補給金の交付対象者について、指定団体に委託して生乳を出荷する生産者に限定せずにすべての生産者を対象とすること。

 もっともらしく聞こえる提言ですが、第1点目については、事実の歪曲があるように思えます。なぜなら、現行制度においても、生産者は自由に出荷先を選ぶことができるからです。

 互助精神に基づき加工原料乳の価格面での不利性と需給調整のリスクを共同で負い、ローリスク・ローリターンの安定的な経営を選択する大多数の生産者には補給金が交付されますが、その大多数の生産者の互助精神と負担に依存し、隙間を狙って飲用向けに限定して生乳を販売し、自らの利益のみを追求するハイリスク・ハイリターンの経営を目指すこともまったくの自由です。このような仕組みの中で、結果としてほとんど(97%)の生産者が法定の信頼感ある指定団体に委託して生乳を販売することを選択しているに過ぎません。

 第2点目については、出荷形態によるハンディキャップをなくし、指定された農協のみに国が財政支援を行うという、現行の方式は是正すべきであるとしています。しかしながら、実際には、指定団体を通して生乳を出荷する生産者が価格面で不利な加工原料乳の生産を引き受けています。さらにその際、加工向け乳価と飲用向け乳価の格差が拡大しているため、補給金の交付を受けても、出荷量の一部を加工向けに販売する場合は、飲用向けに限定して生乳を販売する生産者と比べて手取り乳価がやや低いという、「逆のハンディキャップ」が存在します。それは指定団体制度が創出した、価格の異なる用途別取引が国内の生乳取引の基軸となったなか、最高価格の飲用向けに限定した制度外取引と、用途別の加重平均価格(補給金込み)が実質手取りとなる制度内取引との価格差、つまり最高価格と平均価格を比べるようなものです。

 それゆえに、指定団体に生乳の販売を委託している大多数の生産者は、そのような飲用向けのみに限定して販売しようとする生産者に対して、制度を利用して「いいとこどり」をしていると考えているわけです。こうした中で、「いいとこどり」をして手取り乳価が相対的に高い生産者に対して、需給調整に何の責任も負わずにハイリスク・ハイリターンを追求した経営の結果として、たまたま収益上不都合な加工原料乳が発生した場合に補給金を交付すれば、イコールフッティング(競争を行う際の諸条件を平等にすること)とはいえないどころか、「いいとこどり」をする生産者を優遇し、生産者間の不平等を助長することになるのではないか、と指摘しているわけです。(補論4へのリンク

 なお、類似した制度を持つ米国やカナダでは、生産者間の競争条件を平等にするため、同一地域の生産者にはプール乳価により同一乳価が支払われる仕組みとなっています。比較的緩やかな制度にみえる米国では、他の地域から用途別価格の高い飲用向けに生乳を持ち込んで販売しても、持ち込んだ先のプール乳価が支払われる仕組みとなっており、「いいとこどり」をしようとしてもできません。それによって、生産者間の自由な競争が行われる条件を確保しているということであり、規制改革推進会議はこのような事例も「まじめに」参考にして、真のイコールフッティングとは何かを議論する必要があると考えます。

 今回公表された「意見」には具体的な記述が多いため、議論が必要な論点や明確化が必要な論点が多数あります。以下では、総論的な論点と、各論的な論点に分けて、考え方をまとめます。


1 総論的な問題点

 11月7日の規制改革推進会議では、総理自ら、真に農業者の立場に立った提言を早急にまとめていただきたい旨発言されているようですが、規制改革推進会議においては、真の農業者である大多数の酪農家の意見にはとほんど耳を貸さずに議論が進められており、総理の発言すら無視されるという、異常ともいえる状況になっているのではないかと危惧しています。

 たとえは悪いかもしれませんが、規制改革推進会議にける議論は、まるで、互助精神により価格面で不利な加工原料乳の生産と生乳需給調整のリスクを共同で負い、日本酪農の屋台骨を支える大多数(97%)の生産者及び指定団体等を被告とし、その負担に依存しつつ自己の利益のみを追求するごく少数の生産者等(残る3%のなかの、さらに一部)を原告とする裁判のようであるとの印象です。

 しかも、裁判官たる規制改革推進会議は、原告である特定の卸売業者およびその関係者の証言を、事実関係や論理の整合性すら検証なく、唯々諾々と証拠採用するものの、被告である大多数の酪農乳業関係者の証言は、ほとんど無視あるいは却下して証拠採用もしないという、まるで独裁国家の裁判とでもいうような異常な状況となっています。

 今回の「新提言」には様々な意見が記載されていますが、十分な議論がなされていない中で唐突に様々な意見が出されています。したがって、4月の「提言」の際もそうでしたが、「新提言」に示された様々な意見が現実の経済の中で支障なく実行可能であるのか、あるいは掲げている目的が達成されるのか、などの検証がまったくなされていません

 以上のような状況を踏まえ、少なくとも、実務を担っている専門家から実行可能性や目的どおりに改革が機能するのか真摯に意見を聞いた上で、最終的な意見をまとめるべきであると考えます。規制改革推進会議は、原案の作成段階から今はやりの第三者委員会のような様相を呈していますが、なんといっても餅は餅屋です。


2 各論的な問題点

 具体的に検証すべき論点を挙げれば、以下のとおりです。

 第1に、目的としている酪農家の所得の向上や生産基盤の強化が図られるのかという論点です。

 指定団体の改革については、海外の先行事例(英国のミルク・マーケティング・ボードの解体)で、一元集荷多元販売等の法的権限をはずすことにより、どのような影響が生じているのか、検証済みであるにもかかわらず、このような貴重な事例をまったく無視しています。

 また、生産や経営の安定等を図るため、類似した制度を持つ米国やカナダでは、組織は統合する方向で改革が進められているにもかかわらず、規制改革推進会議はこれとは逆方向の分割縮小を誘導する方向に舵を切ろうとしています。これでどうして、酪農家の所得の向上や生産基盤の強化が図られるといえるのか、まったく理解できません

 第2に、指定団体の機能は維持されるのかという論点です。

 規制改革推進会議においても、指定団体の機能の維持が重要であるという認識を示しているにもかかわらず、生産者が販売先を自由に選べる仕組み(組織が小さく・多数になる)としていることや、部分委託が可能となる仕組み(全量委託の原則廃止)を導入することとしていることなどから、各販売組織の取り扱い数量が流動化・不安定化することになって、需給調整は困難となり、価格交渉力も弱まると考えられるなど、指定団体の主な機能は維持できなくなると考えられます。

 指定団体制度を廃止しても、農協等による共同販売さえ認めれば、生産者の団結力により自主的に生乳需給の調整などを行うはずだ、との指摘もみられます。しかし、制度改革により飲用向け中心に生乳を販売しようとする生産者が一定のシェアを持つようになれば、その分だけ既存の農協系の販売組織(指定団体)に加工原料乳の生産や需給調整のしわ寄せがいくこととなり、現行の指定団体が担っていた需給調整などの機能は維持できなくなるものと考えられます。

 第3に、「新提言」は、補給金の目的は「加工原料乳の生産を奨励するという補給金の目的に即し」と書いてありますが、法律上の補給金の目的は、加工原料乳地域における生乳の再生産を確保することだったはずです。

 「新提言」が法の目的の解釈を取り違えて述べている「加工原料乳の生産奨励」とは反対に、現行法は加工原料乳地域が飲用乳地域となっていくことを想定したものです。それが実現するまでの「暫定措置」であるにもかかわらず、わざわざ、相対的に乳価の低い加工原料乳の生産奨励へと制度目的の解釈を勝手に変更することは、酪農家の所得の向上という改革目的に反するばかりか、市乳化までの暫定措置期間において、競争上不利な乳製品向けへの生乳供給を引き受ける生産者に対して国費で支援を行なうという、制度本来の目的を著しく歪める「矛盾」を生むものです。

 なお、補給金の交付にどのような基準を定めるにしても、広範な地域から集乳する卸売業者を通じて生乳を販売している生産者については、どのようにして個々の生産者ごとの加工原料乳の生産数量を把握するのかなど、解決が困難な課題が多々あると考えられます。さらに、このようにして販売される生乳の価格は、飲用向けとも加工向けとも区別が明確につかない単一の混合乳価と考えられるため、価格面での不利性を補償する補給金の性格から、その一部が加工原料乳であったとしても、補給金の対象とできるのか、また、交付対象として明確に区別できるのか、については大きな疑問が残ります。

 第4に、条件不利地域の生産者に対して集乳経費補助を行うとありますが、これは加工原料乳に対する補給金への上乗せを求めた内容と読めます。しかし輸送に不利な遠隔地の生産者に対する集送乳面の補正は、加工原料乳・加工原料乳地域に限定する理由はありません。この場合、飲用も含めて上乗せされなければ、とりわけ都府県における離島など、飲用向け生乳を供給する条件不利地域の生産者はほとんど補助を受けられず、これらの生産者を支えるには全く不十分ということになります。

 また、今回の制度改正案によれば、指定団体制度の下で、生産者が共同で負担することにより財政負担なしで合理的に調整されていた集送乳経費の一部が、補助金に付け替えられることになります。財政的な観点からも、これが合理的な制度改革といえるのか疑問です。
いずれにしても、制度設計が非常に困難な提言であると思われます。

 第5に、乳価交渉に関する意見についてです。
 生産者のコスト増要因見合いでしか値上げ交渉ができていない、真に生産者のためにあらゆる手段を尽くした交渉へと改革すべきである、乳価交渉のメンバーや交渉プロセスを抜本的に見直す、などとしていますが、何が問題でどうしたいのかまったく不明です。具体的な乳価交渉のあり方が提示されなければ、その有効性や現実性を議論できません。つまり「話にならない」意見です。

 そもそも乳価交渉は民間同士で行っているものであり、乳業は小売への販売交渉状況をも踏まえ、生乳生産費の動向や需給事情に加え、生乳の安定確保を考慮しつつ交渉していると理解しています。また、乳業メーカーは、自らの生産性も考慮した適正価格での安定的な生乳取引が行われるよう配慮すべきである、としていますが、生乳の安定確保のためにも、そのようなことは、すでに当然のこととして行われているものだと理解しています。

 第6に、酪農関連産業の構造改革についてです。
 乳業の再編については、民間企業に統廃合を強制することはできない中で、「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」を踏まえ、乳業再編事業を活用しながら粛々と実施されているものと理解しています。

 また、同11月11日付で公表された未来投資会議と規制改革推進会議・農業WGが合同で取りまとめた資料によれば、乳業を含めた業界再編・設備投資等を推進するとし、その改革を推進するため、農産物の流通・加工に関し、国の責務、業界再編の推進手法等を明記した新法を制定する、とされています。したがって、乳業の再編は新法を制定してまで推進する方針ということになりますが、はたして民間企業である乳業の再編に国がどこまで強制力をもって関与するつもりなのか、推移を見守る必要があると考えます。

 第7に、飲用牛乳・乳製品価格の安定を図るため、欧米に比して過当競争となっている小売量販店の業界再編と不公正取引の是正が必要である、としていますが、そこまで踏み込むことができるのであれば、国家貿易の運営方式の改革を行う前に、バター等乳製品のモニタリングについても、乳業メーカーが販売した先の流通・在庫等の状況について、販売戦略として流通在庫が膨らんではいないか、売り惜しみはしていないかなど、規制改革の観点から、末端の小売にまで強制力を伴う実態調査等の検討を行うべきであると考えます。


 以上のとおり、「新提言」には様々な論点が提示されていますが、それらが現実の経済の中で支障なく実行可能なことなのか、あるいは掲げている目的が達成され得るのか、専門家も交えた議論や検証さえ行われていません。関連産業への影響の大きさを考えれば、今秋までに結論を得るとした時間の制約や振り上げたこぶしのおろし方を考える必要はありません。規制改革推進会議は、総理自ら、真に農業者の立場に立った提言を早急にまとめていただきたい旨発言されているという事実と、大多数の酪農家や関連産業に従事する者が「意見」を批判している事実を重く受け止め、酪農乳業関係者が納得のできる、真に酪農の安定と発展に資する「意見」をまじめに提言していただきたいと考えます。

 この11月11日の農業WG「新提言」に対する、私たち研究会の総括的な見解とは、「内容の不合理」ゆえに「理不尽」なものである、というものです




 当研究会の論考を最後まで読んでいただきありがとうございました。

 「新提言」の最終的な扱いについては、来週(11月21日の週)中にも結論を出す見込みと報じられています。みなさまには、一人ひとりの思いを是非、「コメント」という形でお伝えいただければ幸いです。また、私たち研究会の意見に賛同していただける方は、是非「拍手!」をクリックしてください。

 また、国と食料に関する、極めて重要な制度が扱われた議論であると、私たちの研究会は考えており、「十分かつ慎重な検討がなされるべき論点」が広く国民のみなさまの目に触れる形で公論に付されるものであって欲しいと願っています。この趣旨にご賛同いただける皆様には、是非、私たちの「意見」や論考を、様々な形で広げていただきたい。「拡散希望!」であります。


        
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改革論議の考察資料「指定生乳生産者団体制度改革をどう考えるか」

 当研究会の会員にも名を連ねていただいた、北海道大学大学院 農学研究院 基盤研究部門 農業経済学分野 食料農業市場学研究室の清水池義治 講師より、現在の指定生乳生産者団体制度改革を考えるポイントを整理した「資料」のご提供をいただきました。
 以下に、清水池先生から当ブログ読者に向けて寄せられた文章とともに、資料「指定生乳生産者団体制度改革をどう考えるか」のPDFファイルデータを読者にご提供します。(2016年11月14日、管理人)


 酪農乳業関連制度研究会会員の清水池です。

 指定団体制度をはじめとする既存制度の問題点について大いに議論がなされること自体はよいことではありますが、前提として、議論の対象となっている制度がどのような役割を社会で果たしているかという認識を共有する必要があろうかと思います。そういった問題意識のもと、指定団体制度と乳製品関税に関する論考をまとめた資料を、このブログの読者のみなさんにご提供いたします。内容は関係者の方々にとっては自明のものではありますが、あまり制度に詳しくない方々に対する説明の際には多少役立つかと思います。

 本資料は2016年11月10日に札幌市で開催された、北海道農業ジャーナリストの会・平成27年度第2回研究会で清水池が使用した資料をもとに、一部を修正したものです。本資料の内容に関しては、報告者の清水池が全責任を負うものです。

 口頭による講演での配布資料がベースですので、説明不足の箇所もありますが、ご容赦ください。制度改革をめぐる議論の中で本資料が有効活用されることを希望いたします。


 資料はこちら>










 

英国の制度廃止の影響に関するMMJの言説は事実に反する

研究会の会員から以下の文書について、掲載要請がありましたので公開します。


英国の制度廃止の影響に関するMMJの言説は事実に反する
                    
 MMJ社ホームページの2016年11月8日付コラム「結果ありきの調査団報告」で、Jミルクが企画した「英国酪農乳業現地調査報告」が取り上げられている。どうやら、英国がミルク・マーケティング・ボード(MMB)を解体した結果、乳価の急落に伴い酪農家の所得が大幅に低下したという事実を、牛海綿状脳症(BSE)のせいにして全面的に否定したいらしい。そこで、ブログ読者に事実関係を正確に理解していただきたいと考え、ここではMMBの解体過程に関連する事実関係を整理・確認し、本来の議論の対象である規制改革推進会議の提言ではないものの、あえてコメントすることとしたい。

 今回の調査は、2013年10月に横浜で開催された「World Dairy Summit 2013」の際、英国の酪農乳業関係者から英国への招待を受けたことが発端となって、約1年前から企画されたものであり、自民党・畜産酪農対策小委員会で報告することが目的ではない。そもそもMMB解体に関する経緯や結果は、業界内では解体当時から、制度改革というものに慎重な検討を要するモデルケースとして周知の事実であった。

 また、2015年7月の自民党提言を受けた農水省生産局長からの私的な諮問により、酪農乳業界では「生乳取引のあり方等検討会」で生乳取引改革を議論したが、同年10月にこの検討結果を報道関係者に記者会見で説明した際にも、複数の報道関係者から英国のケースに関して強い関心が寄せられており、業界側としても、英国の制度改革に対する評価を、今日的に再確認する必要性が強く意識されるものとなった。

 今回の調査は、そうした英国側の酪農乳業関係者と交流する中で、英国内における現段階での酪農・乳業関係者の評価を改めて確認する必要性が議論され、実施されたものだ。調査のタイミングがたまたま規制改革論議と重なったため、調査で得られた重要な情報として、調査に参加した乳業関係者から自民党・畜産酪農対策小委員会で報告されたという経過である。

 まず初めに読者に伝えたいのは、今回の調査を通じて、調査団は数多くの英国の酪農・乳業関係者にインタビューする機会を得たが、誰一人としてMMBの解体に伴う乳価の下落に関して、BSEとの関連に言及した者はいなかったという明白な事実である。その上で、英国の轍を踏むべきではない、との親身なアドバイスをいただいたことを強調しておきたい。英国の酪農乳業関係者がMMJのコラムを読んだら、さぞかし驚くことであろう。

 MMBが解体されたのは1994年末のことである。他方、BSEがイギリスで確認されたのは1986年のことである。このため、86年以降、何度か消費者の間に不安が広がった。コラムには「96年にはBSEの犠牲者が発生し、消費者は恐怖に震えた。牛肉や乳製品の輸出は止まり、価格は大幅に下落した」とある。まるで、英国の1997年から2006年頃まで続く生乳価格の下落と低迷は、すべてBSEのせいであるとでも受け取れそうな書きぶりである。

 しかし、ここにはいくつかの事実とは明らかに異なる記載がある。

 第1に、MMJのコラムで「96年にはBSEの犠牲者が発生し」とあるのは、「変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)」とBSEの関係が科学界から取りざたされ始めたことを指すものと読める。念のため記せば、BSEとvCJDの明確な因果関係は、現時点でも科学的な断定がなされたとは承知していないが、日本国内でもすでに、食品安全委員会によるリスク評価を踏まえ、各種のBSE規制や安全管理上の国内対策が実行に移され、国際獣疫事務局(OIE)からも「無視できるリスク」の国に認定されている。厳密に言えば、「BSEの犠牲者」がヒトで生じたとは断定されておらず、ヒトに被害を広げる「懸念」の問題であった。

 第2に、そのvCJDが英国で確認されたのは「1996年」ではなく「1995年」のことである。1996年3月には、英国CJD諮問委員会がvCJD とBSEとの関連を示唆しており、「懸念」が報じられたのはそれより少し前、という時制になる。こうした状況の中で、牛肉の消費は1995年末から大幅に低下し始めるが、これに反して、生乳の取引価格は1995年から1996年を通して高水準を維持している。

 第3に、MMJのコラムでは、BSEの発生により「乳製品の輸出は止まり」とあるが「乳製品の輸出は止まっていない」。OIEによる国際規則上、乳製品は輸出規制の対象とはならない。現に、英国の乳製品の輸出額をみると、1994年6.9億ポンド、1995年8.2億ポンド、1996年7.4億ポンド、1997年7.5億ポンドと安定的に推移している。以上のとおり、BSEの発生により乳製品の輸出が止まり、価格が下落したというのは明らかに事実に反する
 そもそも英国は牛乳乳製品の自給率が80%強しかない乳製品の純輸入国であり、もともと乳製品の輸出は少ない。しかもこの当時、英国にはEUの生乳クオータ(生産枠)制度に基づく国別の生産枠が課されており、生産・貿易ともに安定的に推移していた期間でもある。

 第4に、MMJのコラムが言う、生乳取引の「価格は大幅に低下した]時期とは、vCJDが確認された1995年ないしBSEとの関連が示唆された1996年3月ではなく、1997年の春になってからのことである。
 その原因は、英国のMMB制度が廃止された後、一元集荷多元販売などの法的権限を持たないミルク・マークという酪農協(共販組織)によって導入された乳価形成システムへの乳業メーカーの反発や、酪農家との直接取引契約の拡大により乳業メーカーがミルク・マークの組織力の切り崩しを図ったことなどにある。BSEが生乳取引価格低下の原因だとするならば、vCJDが確認されて国民がパニックになったとされる95年ないし96年に急落しなければならないが、95年から96年はその前後の年と見比べても、最も高い水準を維持していた期間である。
 なお、MMB解体直後の約2年間、生乳取引価格が高水準を維持した背景とは、ミルク・マークが多種類により構成した、生乳の複雑なサービスタイプ別の契約方式に対し、この得失を慎重に見極めていた乳業メーカーが、生乳の安定調達を優先する契約方式の入札に集中するとともに、同様の目的から乳業メーカーが酪農家の囲い込みに走ったことなどによる。

 以上のとおり、事実誤認を数点指摘する。コラムを書く最低限の作法として、論旨の根幹を成す事実関係については、確認や裏取りが不可欠であろう。一般論として、誤認や虚偽に基づく意見展開は、そう主張する動機に不純な意図があるのではないか、という疑念を招きかねないものであることを、老婆心ながら指摘しておきたい。(研究会員P)










         
プロフィール

酪農乳業関連制度研究会

Author:酪農乳業関連制度研究会
 私たちは、規制改革会議による指定生乳生産者団体制度に関する提言等について、ある雑誌の特集に様々な立場から論考を執筆した者及びその特集内容に共感する有志です。
 特集では、それぞれに立場は異なるものの、一致して規制改革会議の運営の仕方や提言等について根本的な疑問を共有していることがわかりました。このため、関係者ばかりでなく一般の方々にも、私たちが何を問題としているのかを理解していただきたく、意見を表明することとしました。

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