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指定生乳生産者団体制度の改革論議に「よく出る言葉」について

 酪農の指定生乳生産者団体制度をめぐる改革論議のなかで、「よく出る言葉」について、解説を試みた原稿が会員より寄せられましたので、以下に掲載します。内容は当ブログの意見・補論とも一部重複するものがありますが、より詳しく内容理解を目指す方々には、是非、ご一読をお勧めします。


1 「需給調整」とはどのようなものか

 規制改革会議の委員を含め、一般の方々が最も理解しにくいのは、腐敗しやすい液体である生乳の需給調整の問題ではないかと思います。
 腐敗しやすい液体である生乳は、酪農家が搾乳した後すぐにバルククーラー(生乳の冷却・貯蔵機器)で約4℃程度まで冷却されます。
 冷却された生乳は、日々あるいは地域によっては隔日でミルクタンクローリーにより集乳(個々の酪農家の生乳は合乳)され、ストックポイントであるクーラーステーション(大規模生乳貯蔵施設)や乳業工場に搬送され、この過程でさらに合乳されます。
 そして腐敗が進む前に、できる限り早く牛乳やバターなどの乳製品に加工され、消費者の下に届けられます。

 需要は日々の天候や気温により大きく変動しますし、供給(生産)も同様に天候や気温により変動します。牛乳の売れ行きは平日と休日では雲泥の差があります。乳牛は暑さに弱いため、夏になると生産が減少し、逆に冬から春にかけて生産は増加します。一方、牛乳の需要は夏に増加し、冬は減少します。需要と供給(生産)の波が逆になっているのです。学校給食は牛乳消費の1割強を占めますので、夏休みや冬休みなどで学校給食がなくなると、牛乳の需要は一気に約2割も減りますし、逆に休み明けには2割も増加します。また、地域により生乳の不足する地域や過剰になる地域が流動的に変動します。

 したがって、指定団体が中心となって、こうした様々な要因による需給の変動を日々調整しながら、生産された生乳について、飲用牛乳を余らせることなく必要な量だけ供給し、飲用牛乳に回せない生乳は加工(製品の保存期間が長い乳製品向け)に回すという調整が、全国の各指定団体と全国連(全農、全酪連(全国酪農業協同組合連合会))、そして全国の乳業メーカーとの連携により、コストの最小化を図りつつ日々行われています。こうした需給調整が行われるため、原則として、ある地域で生産された生乳がどこに送乳されて、どこの工場で牛乳又はバターなどの乳製品に加工処理されるかについては、固定的ではなく常に流動的であるという特徴があります。

 その上で、乳製品となったバターや脱脂粉乳の在庫水準をみながら、年間のあるいはもっと中長期的な生産見通しを踏まえた需給調整も行われています。在庫水準をにらみながらの需給調整は、基本的には生産者団体による需要を踏まえた生乳の計画的な生産と、販売見込み数量なども勘案しつつ、行政による国家貿易による乳製品の輸入により行われています。この運用さえ適切であれば、バターの不足問題は起こりませんが、一昨年はその運用が必ずしも十分に適切ではなかった中で、バターが不足気味であるとの報道が行われたことから、消費者の買い急ぎがおこり、バター不足問題が顕在化したものと思われます。

 より厳密に言えば、生産者には異論があるかもしれませんが、生産者と乳業メーカー間の価格交渉の際にも、コストのほか需給状況が勘案され、価格が決定されています。また、行政による加工原料乳生産者補給金の交付対象数量、補給金単価及び関連対策の決定の際にも、需給事情が勘案され、例えば、生産が不足していると考えられるときには、増産のシグナルが生産者に送られるように運用されています。


2 「需給調整」生産者及び指定団体の対応

 こうした中で、増産への対応については、個々の酪農家は、短期的には給与する飼料の工夫などの飼養管理の改善により、中長期的には増頭を基本とした規模拡大などにより対応することになります。しかし、そのためには資金の確保ばかりでなく、畜舎の増築の余地、飼料作物生産のための農地の確保、家畜排せつ物の処理が適切に行え、近隣住民との間で問題が生じないことなど、とりわけ都府県においては多くのハードルを乗り越えなければならないので容易ではありません。

 また、自ら経営内で増頭するためには、授精し、妊娠し、2分の1の確率で雌子牛が生まれ、その雌子牛が成牛になるまで育て、その牛に授精し、妊娠し、出産してはじめて生乳生産が開始されるため、最低でも3年近くかかります。自分で育てずに初妊牛を買ってくればいいといっても、それではA農家で生産する予定であったものがB農家で生産することになるだけで、全体としては増産には貢献しません。

 では、輸入ではどうかというと、BSEなどの伝染病の発生により、主要酪農国である北米やヨーロッパからは輸入できません。乳牛を輸入できる国は、乳牛の産乳能力の低いニュージーランドなどしかないため、ほとんど行われていません。

 減産が必要な場合は、搾乳牛の淘汰くらいしか有効な方法がありません。搾乳牛を淘汰すれば、その分だけ収入が減ることになります。平均的には、1頭当たりで100万円近い減収になりますので、生産者はなかなか踏み切れないというのが実態です。巷間言われているように、水道の蛇口を閉めるようにはいかないのです。

 指定団体は、その会員である農協等を通して管内の生産が計画に沿った生産になっているか管理・調整することになります。増産を抑制する場合又は減産が必要な場合、生産枠による管理や搾乳牛の淘汰が行われます。

 EUでは1984年から2015年まで国別の生産枠(クオータ)がありましたし、カナダでは、現在でも生産者間でクオータを売買しながら生産を行っています。搾乳牛淘汰についても、需給緩和による価格の回復を目指して、米国では2003~2010年に実施されましたし、EUでも2015年4月からのクオータの廃止等に伴う価格の低下に対応して、現在、その導入が検討されています。
 規制改革会議において、10年近く前に実施したかつての減産に関連して指定団体が批判されていますが、減産の際の生産枠管理や搾乳牛淘汰は、何も日本に限ったことではないことはご理解いただけたことと思います。とりわけ輸出競争力のない日本にとっては、やむを得ない対応だと言っていいでしょう。


3 「需給調整」輸出の可能性、メーカー及びアウトサイダーの対応

 輸出に関しては、規制改革会議の提言では指定団体関係者の発言として、「一部の指定生乳生産者団体からも、現行制度が生産力伸び悩みの原因となっているため、今後は生産枠による管理をやめて、将来的に供給量が国内需要を上回れば、輸出による調整を志向しているとの意向が示されている」との引用がなされています。しかし後に明らかになった議事録概要を見ると、ここには2つのやや作為的ともいえる引用があります。

 議事録全体を通して読めば、発言者の趣旨はわかるはずですが、正確には、「現行制度が生産力伸び悩みの原因になっている」とは言っていませんし、「供給量が国内需要を上回れば、輸出による調整を志向している」とも言っていません。

 他のところでは、生産量の伸び悩みについて、ここ数年、所得が十分に確保されていないことが原因である旨言及していますし、供給量が国内需要を上回った場合については、基本はチーズの生産を増やすことにより対処すると言っており、現状からはほとんど考えがたい事態として、それでも余った場合には輸出を考えるが、価格が安くなるので、その際には計画生産をなくすことができるかわからない旨答えています。

 これらの2つのやや作為的ともいえる引用は、指定団体制度を廃止するという結論に導くために、論旨があいまいになる「口頭での発言」を利用して、都合のよいところだけを引用し、発言者の本当に言いたい点は引用していないように見受けられます。この点については、多くのヒアリング対象者が、このような不満を抱いているとも聞いています。
 
 さて、生産過剰基調の場合、乳業メーカーは生乳の受け入れ拒否を行うこともできますが、基本的には全量受け入れを行っています。そして過剰在庫を抱えることにより、乳業メーカーは過剰な金利倉敷料の負担を行うことになります。

 また、平成18年に生乳が廃棄されたことがクローズアップされていますが、あの際は日本全体の乳業工場における乳製品の処理能力を超えて生乳が生産されたために起きた、真にやむを得ない廃棄でした。指定団体が予防的な経営判断として廃棄させたわけではなく、「生乳の行き場が無く、捨てる以外の選択肢がない」ところまで追い込まれた、やむを得ない事情であったことを理解する必要があります。このような場合、特定の生産者が不利益をこうむらないよう、指定団体管内の全酪農家で、その生産量に応じて均等に負担することになります。

 では、アウトサイダーはどのように対処しているのでしょうか。基本的に、すべての生乳を飲用向けで売り切る対応しか取れないため、現状では生乳取引価格の引き下げにより対処しています。これはわずかな生産シェアしか占めていないためにできる対応であり、全国の酪農家・指定団体が同様な対応を行った場合には、タダでも引き取ってもらえないでしょう。

 輸出競争力のない日本では、こうした価格による対応や輸出が困難であるため、指定団体による生産量の調整により対処せざるを得ないわけです。


4 部分委託を無制限に認めることとしたらどうなるか

 仄聞するところによると、規制改革推進会議の委員の1人が、「生乳の部分委託を無制限に緩和すべきである」との主張をしているとのことです。これが本当だとすれば、これまでの提言をさらに一歩進め、生乳流通を全くの無秩序な状態にせよと言っているのに等しい主張であると考えます。つまり、酪農家は、自分の都合でどの組織にどれだけの生乳を販売委託してもよく、あるいはどこの工場に生乳を直接販売してもよいということになります。

 一見、酪農家にとってメリットの大きい仕組みのように思えますが、本当にそうでしょうか。あくまで仮定の話ではありますが、よく考えてみましょう。

 まず、酪農家への影響です。本ブログの巻頭にある「規制改革実施計画の推進に対する意見」や補論にも書いたとおり、そのようにすれば、道北や離島などの消費地の飲用牛乳工場から遠くにある生産者ほど不利になるため、そのような地域での生産は衰退に向かうでしょう。他方、消費地に近い都市近郊酪農にとっても、価格の高い飲用市場に生乳が集中することから、飲用乳価は低下するものと思われます。

 次に、新たな組織を含めた指定団体等への影響です。酪農家は所得の最大化を目指して、集乳・販売する組織に対して、乳価の高い飲用向けの生乳として可能な限り販売するよう、委託するでしょう。他方、飲用向けとして販売しきれない生乳については、既存の指定団体くらいしか受け手はないでしょうから、不需要期に限り、生産された生乳の相当部分を既存の指定団体に委託しようとするものと想定されます。

 この結果、生乳の集乳・販売組織は2極分化し、既存の指定団体はいやがうえにも加工原料乳専門の集乳・販売組織へと徐々に移行していくことが考えられます。しかし、上記のように特定の季節だけ生乳を受け入れるということは言うに及ばず、そもそも加工原料乳は年間の生乳取り扱い数量が大きくぶれるため、経営の維持が困難になるか、手数料を大幅に引き上げない限りこのような加工原料乳の取り扱いに特化したような指定団体は存続し得ないものと思われます。仮に存続しえたとしても、多くの参加者による無秩序な生乳流通の中では、生乳需給の調整を行う主体はなくなります。

 もう一つ、困難な問題があります。そもそも、酪農家が生乳の委託先を自由に変えられるようでは、組織にとって生乳の集乳・販売数量が確定できません。したがって、販売数量の裏づけなしに取引乳価の交渉をしなければならないこととなりますが、価格は量と一体的なものであり、交渉が成立するかどうかはやや疑問であると考えます。

 乳業メーカーへの影響も考えてみましょう。乳業メーカーには、多数の組織が可能な限り多くの生乳を飲用向けとして販売しようとして集中すると想定されることから、飲用向け生乳は買い手市場となり、価格には大きな引き下げ圧力がかかることになるものと思われます。

 他方、加工原料乳については、受け入れが不安定になるばかりでなく、飲用として販売できなかった品質の劣化した生乳が流れ込む可能性もあり、安定的で高品質なバター等の乳製品の生産が困難になることが想定されます。この結果、消費者にも悪影響が及びかねません。

 仮定の置き方いかんで、さらに様々なことが想定されますが、推測はこの程度にしておきたいと思います。ただし、はっきりしているのは、指定団体の主要な機能である需給調整、生乳流通の合理化、生乳取引交渉力の強化のいずれも維持されなくなるであろうということです。


5 インサイダーとアウトサイダー

 これは単なる業界用語です。一言でわかりやすく理解できるように、便宜的に、指定団体による生乳共販に参加する酪農家を「インサイダー」と言い、参加せずに自由に生乳を販売する酪農家を「アウトサイダー」と言っているにすぎません。規制改革会議における議論の中では、この業界用語自体を問題視する指摘もありましたが、もっとわかりやすい適切な用語があるのならば、幼稚園のような「さくら組」でも「ばら組」でも、使いたい分類用語を使えばよいだけの話です。

 インサイダーとアウトサイダーの関係が問題視されるときに決まって指摘されるのが、生乳流通のほとんどを指定団体とその傘下の生産者(インサイダー)が担っているという事実です。まるで不正なことでもしているかのように、ほぼ独占しているという指摘がなされます。しかしその理由は極めて単純で、個々の生産者による自主的な選択の結果にすぎません。酪農家が生乳をどこに販売しようと自由なのです

 乳価の高い飲用向けとして販売できない場合のリスクをとってでもハイリターンを目指すならば、指定団体の傘下に入らなければよいわけです。つまり、その方が儲かると考える生産者が、アウトサイダーという経営のあり方を選択しているだけの話です。他方、ハイリターンよりも経営の安定や互助の精神を重視する生産者は、指定団体を通して生乳を出荷しています。その結果として、「生乳の95%以上は全国に10ある『指定団体』を通じて流通」することになっているということです。

 アウトサイダーの生産者が飲用向けの高い乳価を享受できているのは、皮肉にも、指定団体による用途別の需給調整のお陰で、他の用途よりも飲用向けの乳価水準が恒常的に高い市場が創出されているためです(注:飲用向け約115円/kg、加工向け約75円/kg)。
 しかも、指定団体傘下の生産者が、飲用に仕向けられなかった生乳について、加工原料乳の価格面での不利性や過剰時の生産調整(減産)のリスクを引き受けているからでもあります。したがって、規制改革会議の中で議論されているように、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者(アウトサイダー)が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとし、その新たな組織が飲用牛乳工場に近いなどのメリットを活かして飲用向け市場に割り込めば、そのしわ寄せはすべて既存の指定団体とその傘下の生産者(インサイダー)が受けることになります。

 提言のなかに、指定団体について、「生産者から信頼される実力があればこそ、補給金の取扱などの制度的な裏付けなしでも十分にその強みを発揮できるはずである」というコメントが記載されていますが、制度を変更しても既存の指定団体が需給調整を維持してくれるであろうという期待(甘えといってもいいかもしれません)を前提に、新たな組織にはその負担もなく補給金を交付するという優遇制度を作ろうとしているわけです。これが公的な制度設計として適切であるか、議論が必要なことは言うまでもないことだと考えます。


6.バター不足問題の現状

 規制改革会議において指定団体制度に関する議論が開始された理由は、一昨年の暮れにバターが不足したことが発端となっています。バター不足と指定団体制度が無関係であることは、3「目的とは真逆の結果が予想されるという点」の補論で詳述したので、ここでは繰り返しません。ここでは、指定団体制度を改革せずともバター不足の問題は既に解消していることについて、事実関係を基に簡単に説明しましょう。

 まず、9月27日に開催された農林水産省主催の「乳製品需給等情報交換会議」で配布された資料を基に、バターの在庫水準についてみてみましょう。平成28年7月末の期末在庫は、バターの需給について問題なく対処できた昨年に比べ141%(約28千トン)の水準となっています。乳業メーカー等13社(シェア約96%)による小口業務用のポンド、シートバター等の在庫は156%、家庭用は96%とほぼ前年並みとなっています。

 一昨年は小口業務用の在庫が不足したため、街のケーキ屋さんなどが家庭用バターを買いに走ったため、小売店の棚からバターが消えてしまうという現象が生じましたが、問題の発生しなかった昨年にもまして今年は小口業務用バターの在庫が十分に確保されているため、全く心配はなさそうです。むしろ、関係業者からはバター在庫はだぶつき気味であるとの言葉が聴かれます。

 最近の輸入バターの売渡入札の状況をみると、連続的に不落が発生する状況となっており、このことを裏付けています。農林水産省は9月27日にバター4千トンの追加輸入を発表しましたが、これはあくまで年明け以降の需給状況を見据えた念のためのものであり、現在でもまだ約4千トン近い輸入バターの買い手がいない状況です。量販店でも在庫が十分にあるためか、月末発注により日付の新しいバターが要求される状況だということです。

 9月27日に開催された「乳製品需給等情報交換会議」の議事録によると、スーパーマーケット関係者の発言として、「小売店では、陳列量が少なくてすむショーケースになってきているので、一時的に棚が空になることはあり得る。このため、業務筋の大量買いを防ぐために「お一人様一つ限り」をつけている可能性がある」と記載されています。こうした観点からも、「お一人様一点限り」のような店頭告知が、バター不足に起因するものなのか、販売促進が目的のものであるのか、検証が必要だと考えます。

 以上のとおり、バター不足を解消するために指定団体制度を改革するというならば、バター不足は既に解消しているので、指定団体制度改革は必要がないということになってしまいます。また、上記のとおり、国家貿易による追加輸入の運用を適切に行えば、バター不足の問題は解消されるものであり、指定団体制度が関係していないことが理解していただけたものと思います。


7 計画生産と計画経済

 指定団体制度は「社会主義国の計画経済同然だ」という批判が閣僚からもあったと聞いています。仮に、酪農界に社会主義国並みの強制的な計画経済などというものが本当に実行できるのならば、現在の酪農の生産基盤の弱体化という問題は起きていません。本ブログにおいて縷々述べているとおり、生産と需要に影響を及ぼす要因は多面的であり、計画どおりにいかないのが酪農や牛乳乳製品の特徴であるともいえます。これは明らかに「計画生産」という言霊に縛られた、偏った心証評価ではないかと思われます。

 「計画」あるいは「計画的」というのは理想的な姿のことであり、それだけの供給を果たしていくという、いわば生産の目標であり、市場に対する約束のようなものです。しかし、酪農家のみなさんがいつも言うように、実際には生乳生産を増やしたくとも相手は牛なので水道の蛇口をひねるようにはい行かず、天気が変わるだけで牛の体調や草の質も変わって生産量は変動します。牛乳乳製品の全体的な需給状況を絶えず注視し、コントロールしながら、生産を増やしていく方向なのか、減らしていく方向なのか、そういう視点を酪農家と乳業者が共有し、行政による国家貿易の運用とも連携しつつ、最終的には消費者に安定的に牛乳乳製品を供給するためのものであるといえるでしょう。基本的には、酪農乳業関係者が不確実性の大きい需給情勢の見極めをするためのツールの1つであって、それを酪農乳業界挙げて注視しながら経済活動に取り組んでいるということです。


8 付加価値の創出

 国の加工原料乳生産者補給金制度は、指定生乳生産者団体にのみ、乳業者との間で生乳取引を行う際、生乳を用途別に区分して取引することを求め、認定された加工原料乳(バター・脱脂粉乳等向け及びチーズ向け)の数量に対し補給金を交付することとしています。

 用途別取引は、生乳取引の透明性を高めるとともに、原料として仕向ける用途別の乳価を合理的に決定する役割を持っています。指定団体にとっては有利販売を行う際の基準となる一方、乳業者にとっては製品の原料乳の価格として重要な意味を持ちます。制度発足当初に比べ、生乳の仕向け先が多用途化したことにより、コンビニスィーツ向けなどに生クリームの需要を創出したり、健康志向で市場が拡大するはっ酵乳向け取引がヨーグルトの需要を支えたりしています。

 このように、指定団体による用途別取引により、消費者の需要を喚起する商品開発が促されているといえます。

 例えば、北海道などで、酪農家が自家製造で手作りチーズなどを作る場合には、指定団体に出荷した生乳をチーズ向け乳価(約65円/kg)で買い戻すことができるため、指定団体への販売乳価(約85円/kg)よりも低い価格で自分の牧場で生産した生乳を使用できます。また、ジェラートを製造・販売する酪農家が増えていますが、指定団体への生乳販売の全量無条件委託を弾力化したことにより、このような自由な取り組みが可能となっています。

 最近、「NHKプロフェッショナル仕事の流儀(28年9月26日放送)」で、地方創生で全国から注目を集める“グルメ戦略“の寺本氏の取り組みとして、ミルクジャム用の生乳を手に入れるため指定団体を訪れる場面が取り上げられていました。指定団体は、経済効率性だけで判断するのではなく、生乳の価値を高める寺本氏の取り組みを支援する姿勢がありました。

 このように、現行の制度が商品開発を阻害しているどころか、酪農家の多様な経営展開や、酪農家による規模の小さい取り組みを後押ししているというのが実態です。その結果、多様な国産の牛乳乳製品の供給や地方創生の取組にも貢献し、消費者に対するメリットにもつながっています。

 規制改革会議の今春の提言によれば、指定団体制度を廃止し、だれもが指定団体のような新たな組織を自由に作れるようにすれば、消費者ニーズに応じた商品開発が促されるとの説明がなされていますが、差別化された特別な生乳を利用した商品を生産・販売することは、現行の制度の下でもできることです。そもそも新商品の開発は、この産業においては乳業が担っているという基本的な事実が忘れられています。新たな生乳販売組織が自由に作れるようになったとしても、生乳を集乳・販売することが本来の業務であり、消費者の需要を喚起する商品の開発を促すことにつながるとは考えられません。


9 生乳生産が伸びない理由

 近年の生乳生産は減少傾向を継続していますが、その背景には、指定生乳生産者団体が全国10団体に再編されて以降の、この15年程度だけをとってみても、生乳生産に負の影響を及ぼす様々な災害や、産業的なアクシデントなどに見舞われ続けてきたという事実があります。具体的に列挙すると、以下のとおりです。

・平成12年:雪印乳業による食中毒事故。
・平成13年:日本初のBSE発生の確認。平成15年末には米国でも確認。
・平成14~19年:歴史的な脱脂粉乳の過剰在庫と過剰在庫処理対策。18~19年は減産型の計画生産へ。
・平成19~21年:世界的な資源価格の高騰。飼料穀物価格は一時約3倍にまで高騰。
・平成22年:宮崎県での口蹄疫の発生。
・平成23年:東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故。
・平成25年~27年:TPP交渉参加から大筋合意。円安傾向への反転等による、国内への飼料供給価格の高騰。
・平成28年:熊本地震、北海道等における台風被害等。


 こうした中で、現在、一部の指定団体や単協の取り組みとして、生産者が自主的に、あるいは行政の支援を受けて、酪農生産基盤の強化に取り組んでいます。さらに、今後の取り組みとして、乳業による支援を基本とした生産者との連携による生産基盤強化のための対策が検討されているところです。

 生乳生産を増やすためには、究極的には搾乳牛の頭数を増やすしかありませんが、様々な制約がありなかなか伸びません。その理由をこれまでの説明なども参考に列挙すると、以下のとおりです。

・都府県の生産が伸びない理由は、土地条件の制約、畜産環境問題(近隣住民への対応、環境対策費が相対的に高くなること)、他の就業機会が豊富なことによる後継者不足などから、規模拡大が困難なこと。

・増頭するためには、授精、妊娠、雌子牛出産、雌子牛の育成、成牛になって授精、妊娠、出産、そして搾乳開始、までに最低でも3年近くかかること。

・肉用牛価格が過去最高水準にある中で、経営として所得の最大化を図るため、和牛を交配することによる交雑種の生産や和牛受精卵移植による和牛の生産はやむをえない選択であり、その結果として乳牛の後継牛が不足していること。

・輸入により対応しようとしても、BSE、ヨーネ病、口蹄疫などの伝染病により輸入可能な国が限られており、現状では、乳牛の産乳能力が低いニュージーランドと、8月25日に輸入解禁されたばかりのオーストラリアくらいしか考えられないこと。加えて、輸入検疫スペースにも限りがあるため、現在はほとんど輸入されていない状況であること。


 規制改革会議は、「酪農の生産・流通体制は消費者のニーズに十分に応えるものとはなっていない」、あるいは「指定体制度のせいだ」と言いたいようですが、以上に挙げた様々な要因のどこが、その主張に関係しているというのでしょうか。酪農乳業関係の実業者からは、その主張が「理解できない」という意見があふれています。









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プロフィール

酪農乳業関連制度研究会

Author:酪農乳業関連制度研究会
 私たちは、規制改革会議による指定生乳生産者団体制度に関する提言等について、ある雑誌の特集に様々な立場から論考を執筆した者及びその特集内容に共感する有志です。
 特集では、それぞれに立場は異なるものの、一致して規制改革会議の運営の仕方や提言等について根本的な疑問を共有していることがわかりました。このため、関係者ばかりでなく一般の方々にも、私たちが何を問題としているのかを理解していただきたく、意見を表明することとしました。

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