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制度理解の前提として考えるべき「酪農の事情」

 ここでは、研究会の論考を理解するうえでの「参考」として、酪農の制度政策論議を行なうにあたり、基本としておさえておくべき酪農の事情について、ここでは酪農の「生産活動」と「生乳需給調整」との関わりから解説したいと思います。(研究会員T)


1.生乳流通上の基本的な制約要因

 酪農家の仕事とは、一般の方々もよくご存じのように、乳牛を「良好な健康状態」で飼い、授精して子牛を出産させ、母牛の出す乳を搾って畜産物として出荷することが基本です。

 農家が出荷する乳は「生乳(せいにゅう)」と呼ばれます。腐敗しやすく、品質の劣化も早いため、その出荷管理には「冷蔵」(エネルギー及び施設にコストを要する)とともに、可能な限り素早く流通(物流コストを要する)し、速やかに製品とすることが産業命題となります。製品化されたものは、牛乳・乳飲料などの場合、殺菌工程を経て無菌充填されることが現在では一般的であり、また乳製品も多くの場合(脱脂粉乳のように冷蔵を要しない安定した形質のものもあります)、生乳以上に冷蔵保存に適した製品形態となることから、生乳に比べ安定した状態で一定の期間(商品形態によって賞味期限等は異なる)保存管理しやすい状態にする必要があります。

 また、あまりに当たり前過ぎて、逆に思いがけないことかもしれませんが、生乳は繊細な品質管理を要する「液体」であり、貯蔵といっても、その辺りに置いておくことはできません。必ず冷蔵する仕組みを伴った「何らかの容器」に入れる必要があります。生乳経済のうえでは、大型のタンクがその貯蔵単位となりますが、これには常に「容積」の制約があり、容量を超えて入れることはできません。生乳が余っている時に、タンクに余剰生乳が残ると、次の日に乳牛から新たに生産された生乳は「入るスペースがない」という状態に陥ることになります。また生乳の物流の観点では、輸送車両のタンクを可能な限り満度に生乳を積載することが最も効率的であり、タンクの容量に満たない量の生乳を輸送することは、「空気」を運ぶことに輸送費をかけるようなものにもなります。また生乳の品質の点でも、輸送中に生乳がタンク内で大きく波打つような空間があると、タンク内で乳脂肪分(クリーム分)の分離を促す問題があり、輸送においては、出来る限りタンク内で生乳が波打たないような繊細な配慮も必要とされています。

 以上のように、生乳という原料畜産物は、流通過程で「冷蔵」と「容器」の制約の下で、鮮度の問題から「遅滞なく物流する」ことが、品質や食品安全性の観点から、常に求められています。生乳の物流にはタンクを中心に見た時、「入口」と「出口」を経る乳量のバランスの関係において、タンクの容量を限度とした一定の均衡(バランス)が必要であり、つまり「滞留無く流れる」ことが死活的に重要となるわけです。


2.生乳が余ったとしても、搾乳を止められない酪農家の現実

 よく言われることですが、コメやタマネギやジャガイモなどのように、保存の効く耕種農産物とは異なり、酪農では母牛が泌乳期にある間は、日々、止まることなく搾乳をしなければなりません。例えば生乳が余っているからといって、「牛から乳を搾るのを減らせばよいではないか」と思う人も多いかもしれませんが、それでは牛が「乳房炎」という病気になってしまいます。

 乳房炎の牛から搾った乳は、家畜衛生上の問題として、出荷の対象外となります。また重度の乳房炎になった牛は、その後の乳質が著しく低下したり、牛の乳房の機能そのものにダメージを負うため、酪農経営の経済性の問題から、廃用を迫られることにもつながっていきます。比較的軽症の乳房炎の場合、投薬などで治療も可能ですが、その場合、投薬した薬品が乳のなかにも残存してしまうため、生乳出荷のために飼養する一般の乳牛とは一定の期間、区別して管理され、病状を悪化させないための搾乳は行ないますが、乳房炎の牛から搾った生乳は廃棄されます。

 生乳の出荷販売を生業とする酪農家は、コストをかけて調達した飼料を牛に給与して、収穫物である生乳を得る訳ですが、上記のように搾乳のために飼っていた牛を、需給上の都合や病気で処分したり、一定期間出荷できないなどの事態を招くことは、当然ですが、酪農家にとって、決して小さくはない経済的ダメージを伴う問題になります。


3.需給調整の取り組みとして、酪農家ができることとは何か

 酪農家の段階でできる最も有効かつ基本的な需給調整手段とは、どういうものなのでしょうか。

 生乳が足りないときにできることとは、「牛の数を増やす」、あるいは牛のお乳がよく出るように「飼料を工夫する」というものです。しかし飼料での調整は、酪農家にとって、飼養管理の腕の見せ所ではありますが、あくまで牛の産乳能力や体調とも相談しながらの取り組みであり、無理をすれば牛の健康を損ねるリスクもあります。

 逆に生乳が余っている時にできることとは、「牛の数を減らす(廃用)」というものです。牛を減らすということは食肉用として出荷したり、病気になった牛や1頭当たりの搾乳量が他の牛より低い高齢牛や低能力牛を廃用(と畜処分)することです。しかしこれは酪農家にとって心理的にも経営コスト的にも、小さくはない負担や損失を伴うものです。

 酪農家の段階における生乳需給調整の特徴として注目すべきは、「牛の数を減らす」ことには「即効性がある」ということです。牛を処分すると同時に生乳生産が減少するからです。しかし逆に「搾乳牛の数を増やす」のは長い年月を要するものとなります。生乳が母牛の泌乳期にのみ生産可能なものであるため、生乳生産を増やすためには、子牛を産めるまで、言い換えれば子牛を大人に育てるまで期間が必要であり、さらに妊娠期を経て、出産するまで、概ね3年間ほどの期間が必要(酪農乳業界では「ミルク・サイクル」と呼ばれます=参考・雪メグHPの「ミルクサイクル」解説)になるためです。


4.「食肉市場の原理」が生乳生産の回復に与える影響

 最近の生乳需給において、とくに酪農界の課題になっているのは、生乳の増産です。国内の生乳生産量の不足から、バター不足が続いた近年、乳価の引き上げも行なわれていますが、生乳生産の回復には時間がかかっています。これはなぜなのでしょうか。これまでに述べてきた「酪農家段階」における需給調整機能が、酪農の現場でどのようなことになっているか、最近の状況を見てみましょう。

 以下の話は、生乳の増産が求められる情勢にありながら、乳価が少し上がれば酪農経営が単純に改善するというものではない現状に関するものです。見るべきは、酪農の経済活動が持つ奥行きの深さです。

 牛の頭数を増やすのは決して単純ではなく、搾乳できるまでに、最短でも概ね3年間近くかかるという話をしてきましたが、それに加えて難しいのは、搾乳牛の増加ペースにさらなる影響を与える外的要因として、個々の酪農家の経営状況との兼ね合いから、「食肉市場」の影響を受けるというポイントがあげられます。 つまり酪農家とは単に生乳を生産するだけの産業ではなく、肉用牛資源の生産も担う重要な産業となっているためです。

 酪農家が乳牛に種付けする場合、オスとメスは通常は半々の確率で生まれるものであり、基本としてはオスの子牛は食肉向けに出荷され、メスの子牛は搾乳用の経営資源として手元に残したり、他の酪農家に売却することになります。

 しかし実態はより複雑であり、人工授精技術や受精卵移植の発達によって、乳用のホルスタイン種の牛に、肉用の黒毛和牛の受精卵を移植し、和牛の子牛を生ませるということも、すでに一般化しています。これによって母牛は搾乳できる状態になりますが、和牛を産んでしまっては次の世代の搾乳資源は確保できません。また乳牛に和牛を直接交配して交雑種(肉用牛)を生産するのはもっと一般化していますが、この場合も同様に、次の世代の搾乳資源となる後継牛は確保できません。

 平成28年現在の畜産情勢は、和牛の市場価格は極めて高い水準での取引が続いており、近年の酪農経済に様々なアクシデントや逆風が伴った影響(注=この概要は参考解説として別掲)から、経済的に疲弊感を強めた酪農界にとって、和牛市場の活況には大きな経済的魅力があります。また和牛など食肉用の牛の生産体系には、子牛を一定の健康体にまで育てる初期の「育成段階」と、肉質を含めて肉牛の付加価値を向上させるための飼養期間となる「肥育段階」がありますが、酪農家から肥育農家に子牛を出荷すれば、酪農家にとっては搾乳に供する乳牛よりも相対的に短期間で出荷・販売できることになるため(酪農家の経営形態によっては肥育までを行なうケースも多くあります)、搾乳牛を育てるよりも早く、しかも近年の食肉の高値で大きな利益を獲得できることが魅力になるわけです。肉牛を最終的に食肉として出荷するまでに要する期間は概ね30カ月間ほどかかりますが、酪農の場合は同じような期間をかけて乳牛を大人にしたあと、やっと生乳を搾れる訳で、平均でその後3年間ほどの搾乳期間を要して経済活動を行なう訳ですから、経済物として換金するまでの「時期の利益」は大きな違いがあることになります。

  参考①=和牛(肉専用種)と乳用種(食肉出荷用の乳雄牛)の収益性の違いはこちらをご覧ください。
      
  参考②=搾乳牛1頭当たりの収益性については、農水省の「牛乳生産費」統計調査という資料があります。


5.乳牛の頭数が簡単に増えないのはなぜか

 酪農家に経済的余力があるなかであれば、当然のことながら、自身が酪農を継続するうえで必要な「後継牛(搾乳牛)」を確保することの優先順位は高くなります。しかし肉牛の価格が高騰する大きな収益機会となっていたり、酪農家に経済余力が乏しい環境の下では、「背に腹は代えられぬ経営判断」として、高値で早く収益をあげられる「交雑種」などの肉牛の生産が重視されることになります。とくに酪農の生産コストが北海道より高い都府県では黒毛和種の交配率が高く、また近年では北海道でも、交配率に上昇傾向が見られます(参考=乳用牛への黒毛和牛の交配率)。

 このことは、例えば100頭のメスの乳牛がいたとすると、潜在的には乳牛のメスとオスを50頭ずつ産む産業基盤がありながら、そこに和牛を40頭(40%)産ませてしまうことで、乳牛資源は残る60頭の半々(オス30頭、メス30頭)になるという現実を意味します。現在は雌雄選別精液を生産してメス牛の出生比率を人為的に上昇させる技術開発にも努力されていますが、この残る60頭全部にそうした技術を活用しても、出生比率は現在の技術水準では、オス28頭、メス32頭ほどの差を生むにすぎません。しかし雌雄判別受精卵移植には受胎率(妊娠する比率)が低くなるという技術的課題も指摘されている現状もあり、技術の進展度によって、その効果は絵に描いたように実現しない現実もあります。

 また極めて優良な遺伝資源を持つ牛を潤沢に所有する酪農家のなかには、自身が後継牛として確保する一部を除き、酪農家相手に搾乳後継牛を販売することをビジネスモデルとする酪農経営もあります。しかし国内酪農全体のなかで搾乳後継牛の生産・確保がうまく回転していない現状から、搾乳用の乳牛市場も空前の高騰を見せている状況にあり、「すぐに搾れる牛が欲しい」という酪農家さんにとって、なかなかセリ市場で手を上げられない値段(参考=ホクレン家畜市場集計)となっている現在の生産事情があります。
  
  それならば、すぐに搾乳できる牛を「輸入」すればよいではないか、という議論は業界のなかからも当然の考え方として出ています(参考=Jミルクの緊急政策要望)が、現実にはそう簡単ではありません


6.酪農経済に影響する「市場原理」とは、「生乳市場」の原理だけではない

 規制改革等の議論では乳価が上がっても単純に生乳生産が回復しない現状を見て、「酪農家に経済原理が働いていない」と論評する自称・専門家も(なかには「素人」を公言して、産業を混乱させている自覚がない人も)いるようですが、まじめに酪農経済の勉強をしていない極めて一面的な評価です。単純に乳価が上がっただけでは生乳生産の回復が進まない現状には、上述してきたような「食肉市場の原理」の影響が強くあります。つまり生乳市場とは別の「食肉の市場原理」の影響を意図的に無視する暴論です。

 個々の酪農家は生乳に限らず食肉でも「市場動向」を十分に分析のうえ、経営マインドを発揮して、自身の経営のバランスシートを良好にするために、至極当然の経営判断を下しています。酪農はもちろん、乳牛を飼い、生乳を生産することが基本の産業ですが、その農家経営を現時点でもっとも安定的に行なうために、肉牛市場も視野に入れた、複合的なポートフォリオを組んでいる訳です。

 しかし現状では、近年の様々な外的要因のなかで疲弊した酪農家の経営基盤の回復のため、眼前にある値の高い肉牛市場からの「収益」の獲得が、平時以上に重視されたポートフォリオを組む農家が多い状況と言えます。このことは酪農経営の改善に大きな寄与をもたらしていますが、「生乳増産のため」には逆に障害となっている悩ましい構図があると言えるでしょう。

 ここであらためて考えていただきたいのは、このブログのテーマに照らして、「生乳生産の回復が今、なぜ遅れているか」を考えた時に、ここで解説した現状を重ね合わせて考えると、果たして「指定生乳生産者団体制度」は関係あるのでしょうか、ないのでしょうか、という視点です。

 今春の規制改革会議による「提言」では、「バター不足(生乳不足)」の原因が「指定生乳生産者団体にある」との見方から、「指定生乳生産者団体制度の廃止」を求めた内容ですが、現在なぜ生乳生産が回復しないのか、その理由を考える時に、上述のように「指定生乳生産者団体制度」に原因を求めることには「相当な無理がある」と言えます。

  産業的に厳しい需給調整(増産・減産の双方向ともに、という意味です)を要する局面で、酪農家からいつも発せられる言葉は「生乳は水道の蛇口をひねるように、需給調整ができる品目ではない」というものです。その理由はこれまで述べてきたように、減らすことは物理的に簡単でも経済ダメージが極めて大きく、逆に増やすことには日数が最短でも概ね3年かかる「遅効性」とともに、酪農家が多面的に担う「肉牛供給者」としての役割から、「肉牛市場」の影響も受けるという難しさがある訳です。 


7.本稿のまとめ(生乳の合理的な「需給調整」とは何か)

 以上のように、生乳の需給調整を、酪農の生産段階で行なうことは、減産は迅速に可能であっても酪農経営に与えるはダメージが大きく、また増産は本来的に時間を要し、外的な経済要因の影響も受けるなど、酪農という産業には市場動向に対する迅速かつ柔軟な対応が困難だという、産業上の「特性」があります。

 一方、生乳とは数々の牛乳乳製品を製造するための単一の「原料畜産物」ですが、生乳を主な原料として作られる 牛乳やヨーグルト、バターや脱脂粉乳、チーズなどの牛乳乳製品は、クリームや脱脂乳などの主に原料用途の中間的な生産物も含めて種類が極めて多いことも重要な「特性」となります。こうした多様な牛乳乳製品は市場において、それぞれの品目で日常的に販売の増減変化を生じており、当然のように、その日その日の販売動向に合わせた製造調整が、主に乳業側の努力によって日常的に行なわれています。

 そうした最終製品の市場動向に合わせて、原料である生乳の需給調整を迅速かつ弾力的に行なうには、生産調整が難しい生乳で慌ただしく調整を行なうよりも、むしろ増減を繰り返す各種製品の「用途の違い」に着目した、「用途間の配分調整」で可能な限り対処していくことの方が、柔軟な対応がしやすい訳です。その用途間調整のなかで、生乳の特性上、酪農にとって非常に重要な視点となるのは、日持ちのする乳製品と、鮮度性が重視される牛乳などの、「消費の足の速さの違い」に着目した配分調整となります。

 需給調整を行なううえでは、生乳を使う乳業側からすると、本来の必要量よりも、生乳生産量が若干多いぐらいが、最も余裕を持って調整しやすいですが、生乳市場本来の需給に基づく価格形成要素を考えると、必要量よりやや足りない程度が、酪農家にとっては最も乳価の上昇を期待可能で、生乳が売れ残る(廃棄)リスクも低い環境といえます。同様にこの生乳市場の需給原理を消費者側の視点から考えれば、有り余るほどの生乳がある方が、より低価格の生乳を期待できることになりますが、この場合、酪農家の利益とは対立する関係にあるだけでなく、「売れ残るリスク」が増大するため、経営環境をより不安定にすることになります。こうした市場のなかで、酪農家、乳業者、消費者など様々な立場からの要請に対して、その時々の状況に最も「バランスのとれた状況」を目指すことが当然必要になります。

 牛乳乳製品は、人により好みの差があるとはいえ、すでに日本の「基幹食品」であり、消費者にとって値が高すぎず、酪農家にとって値が安すぎず、また捨てるほど余らず、深刻な不足を起こさない「安定した価格・需給」が強く求められる産業です。

 そのうち需給調整において、「生乳の需要総量に対して過不足を生じる場合」には、酪農家の段階で増産・減産の調整が最終的には必要な課題になります。しかし大幅な増減対応に困難の多い酪農に対して、過度に需給調整負担をかけないことが、生乳の安定的な生産・供給環境の維持には重要で、そのためには、総需要に対してできる限り過不足のない生乳生産の下で、用途間調整を中心に、その時々の市場情勢に対応し「生乳が多すぎず、少なすぎない環境」を目指していくことが、需要側にとっても、供給側にとっても、最も合理的なものといえます。

 一連の酪農の規制改革をめぐる議論では、中央酪農会議と指定生乳生産者団体を中心とした「計画生産」が、旧社会主義下の「計画経済」と同義、との意見もあります。しかし「計画生産」と呼ばれているものの正式な名称は「計画生産目標数量」、つまり「目標」です。基本は時々の需給調整上の要請に対し、増産努力で応ずるか、生産抑制努力で応ずるか。その「方向性」を酪農界のインサイダーにとどまらず、乳業者、実需者も含め内外に示すものです。この目標の進捗状況に関しては、毎月の実績管理がなされ、目標との乖離状況が逐次、酪農界にアナウンスされており、年度の目標に対して、現状の生乳生産が多いのか、少ないのか、または目標から外れていく生産トレンドか、近づいていくトレンドかの「目合わせ」を行ないつつ、産業活動が営まれています。

 ここまで述べてきたように、生乳は増産も減産も簡単な問題とはならず、需給上の想定を1%程度外れるぐらいならば誤差の範囲ですが、2%以上乖離してくると、様々な生乳需給上の問題を生じてくる産業ともいえます。国内の生乳生産量は1年間で約740万㌧にのぼり、1日あたりには2万㌧の生乳が国内を行き来しています。生乳生産の1%とは7万4000㌧、2%は14万8000㌧ですが、これを10㌧積載の生乳輸送車両で換算すると、1%で年間7400台、2%では年間1万4800台。㌔㌘当たりの飲用乳価を115円として換算すれば、1%で85億1000万円、2%では170億2000万円という規模になります。それらを1日当たりで見れば1%が20台、2%が40台という計算で、同様に飲用乳価換算では2300万円~4600万円ということになります。

 当然の事実として、乳業側が保有する工場の処理能力にも「限界」はあり、能力を超えて製品加工を行なうことはできません。また季節的な需給変動も酪農乳業の特徴で、酪農では、とくに都府県の場合、夏の暑さで乳牛が体力を消耗すると乳量は減少します。また需要側では「学校給食用牛乳」の影響が大きく、飲用牛乳需要は年間約400万トンありますが、その約1割を学校給食用牛乳が占めています。この需要が特異なのは、学校には「夏休み、冬休み、春休み」があることで、もちろん土日や祝日もそうですが、合計すれば1年のうち5~6カ月は需要のない日があることになります。スーパーマーケットで土日祝日に牛乳の特売が多いのも、これを調整する市場側の対応ですが、長期の休みでは特に、牛乳以外の用途へ、生乳を振り向けなければならない訳で、それを酪農側から主体的に販売調整するのが「指定生乳生産者団体」です。

 こうした産業規模のなかで「生乳に行き場がない」という事態が起こると、産業の混乱がどれほどのものになるでしょう。指定生乳生産者団体の仕事とは、時間が経てば確実に品質が劣化する生乳に、「確実な行き場」を確保し、場合によっては、価格の安い乳製品向けに回してでも、全量を販売しきる、契約上の「責務」があります。そのかわり、契約に際しては「A農家だけ価格の高い飲用向けで、B農家だけ価格の安い乳製品向けで」という、えこひいきのような販売を行なわず、価格の安い乳製品向けで販売した差額リスクを、同じ指定生乳生産者団体を通して販売するすべての農家の間で、出荷乳量に応じ「均等にリスク分配する」取り組み(それは「プール乳価」と呼ばれています)を進めています。加工原料乳生産者補給金制度は、この「乳製品向け」の生乳に対し、交付単価と数量をそれぞれ限定して、持続的な酪農経営がなされるよう支援している制度です。

 いかなる製造業でも、当然のように、「生産計画」や「生産目標」があるものですが、調整のひときわ難しい酪農で、そうした「最もバランスのとれた需給環境」を計るベンチマークとして自主的な目標や計画を共有することが、どうして酪農だけ「旧社会主義的経済だ」と言われねばならないのか。逆にこうした目安もなく、どうやって安定的な生産環境を確保できるのか。指定生乳生産者団体制度に勝る方策があるならば、酪農家はずっと前から、とっくにそうしているに違いないと思いますが、「制度の抜本的改革」を言うならば、その具体的な良策はあるのか。本来議論されるべき問題は、そういうことなのではないでしょうか。
(おわり)










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プロフィール

酪農乳業関連制度研究会

Author:酪農乳業関連制度研究会
 私たちは、規制改革会議による指定生乳生産者団体制度に関する提言等について、ある雑誌の特集に様々な立場から論考を執筆した者及びその特集内容に共感する有志です。
 特集では、それぞれに立場は異なるものの、一致して規制改革会議の運営の仕方や提言等について根本的な疑問を共有していることがわかりました。このため、関係者ばかりでなく一般の方々にも、私たちが何を問題としているのかを理解していただきたく、意見を表明することとしました。

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