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3「目的とは真逆の結果が予想されるという点」に関する補論



 望外に多数のアクセスとともに、様々なコメントをいただきありがとうございます。
 私たちの意見に賛成であれ反対であれ、実体経済に大きな影響を及ぼす制度改革を行うならば、現実に即した幅広い議論が必要であると考えます。酪農(生乳生産額7千億円)、乳業(牛乳乳製品生産額2兆2千億円)というダイナミックな産業は、特定の仮説を試行する社会実験の場としては経済規模が大きすぎます。制度改正を行うならば、実務に責任を有する関係者の意見をよく聞いた上で、制度改正により影響を受けるであろう関係者のだれもが納得できるよう、実態経済面への影響について慎重な検証・分析を踏まえて行うべきであると考えます。
 このブログが、規制改革会議では残念ながら実現できているとは思えない、偏りのない公正・公平かつバランスの取れた真摯な議論の場となり、規制改革会議のあり方や提言、規制改革実施計画などの方向性を、真に日本の酪農の発展に資するものに見直すきっかけとなることを切に願っています。
 ここでは、可能な限り簡潔を旨とした、ブログトップページ掲載の「意見」では十分に触れることのできなかった3「目的とは真逆の結果が予想されるという点について、「農業と経済」における論考などを踏まえ、以下に順次、やや詳しく触れてみたいと思います。


3 「目的とは真逆の結果が予想されるという点」

1  酪農生産適地が輸送コスト面から不利に

  ここでの議論の前提として、生乳は用途別に価格が異なっており、その中でも飲用乳価が最も高くなっている理由について理解する必要があります(注:飲用向け乳価 約115円/kg、バター等の加工向け乳価 約75円/kg)。飲用乳価が最も高い水準で維持されているのは、生鮮向け(野菜や果物など)が保存性の高い加工向け(漬物向けや果汁向け)よりも高いという食品一般に共通する需給面での理由のほか、指定団体が乳業メーカーと連携・協調して用途別の需要に応じた的確な配乳を行い、飲用向けへの生乳供給を需要に応じた水準に調整しているからです。スーパーで牛乳の売れ残りをほとんど見ることがないのはこのためです。

  このような中で、規制改革会議において議論されているように、指定団体制度を抜本的に見直して、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとした場合、どのようなことが起こるでしょうか。この場合、消費地に近く、かつ、飲用牛乳工場に近い地域で生乳を生産している酪農家・新組織ほど有利になるはずです。なぜなら、最も乳価の高い飲用向けに限定して生乳を販売することができることに加え、輸送コストも安く済むからです。

  他方、北海道の道北など消費地から遠くて近隣には乳製品工場しかない地域や、鹿児島県の種子島のように離島のため生乳輸送コストが高くならざるを得ない地域の生産者はどうなるでしょうか。考えるまでもなく、そのような地域で酪農を営む生産者は圧倒的に不利になります。例えば道北の場合、近くには乳価の安い乳製品工場しかありませんし、離島の場合、乳価の高い飲用牛乳工場には相当のコストをかけて海を越えてまで運ばなければなりません。このため、このような地域での生産は衰退に向かうでしょうし、結果的にバターなどの乳製品の生産も減少し、都市近郊酪農だけが生き残る事態ともなりかねません。

  一方、輸送コスト面などに大きな不利を抱えるこれら地域は土地条件の制約が比較的少ないため、経営規模の拡大や自給飼料の生産にも適しています。また、都市部や住宅地から離れ、広大な農地を利用した自給飼料生産には、家畜排泄物を堆肥として有効に活用することにより環境問題による近隣住民との軋轢も少ないため、酪農生産の適地といっていいでしょう。都市近郊での畜産環境問題の発生を抑制するため、政策的にもこのような適地での生産を一貫して推進してきたはずですが、このような政策の大きな流れとも矛盾してしまいます。


2 都市近郊酪農には、飲用向け生乳の供給過剰によって乳価の低下圧力がかかる

 それでは、都市近郊酪農は得をするのでしょうか。議論を単純化すると、多くの生乳が最も価格の高い飲用向けでの販売を目指して集中し、指定団体による生乳の用途別需給調整が機能しなくなればどうなるか、ということです。

 現在、生乳の国内生産は約740万トンで、飲用向けが約400万トンですが、この400万トンの飲用向け市場に、次第に740万トンの量的な圧力がかかることになります。この場合、需要(市場の必要量)を超えた生乳が飲用市場に流れ込むことから、飲用向け生乳の供給が大幅に需要を上回り、飲用乳価は当然低下するでしょう。指定団体による用途別の需給調整が行われなければ、需要に対して生産が大幅に不足しているといわれる現状においても、飲用向け生乳は供給過剰になってしまいます。

 いわゆるアウトサイダーの生産者が飲用向けの高い乳価を享受できているのは、皮肉にも、指定団体によるこのような需給調整のお陰で、他の用途よりも飲用向けの乳価水準が恒常的に高い市場が創出されているためです。しかも、指定団体傘下の生産者が、飲用に仕向けられなかった生乳について、加工原料乳の価格面での不利性や過剰時の生産調整(減産)のリスクを引き受けているからでもあります。

 したがって、規制改革会議の中で議論されているように、既存の指定団体より高い乳価で生乳を販売したいという生産者が新たな指定団体のような組織を自由に作れる仕組みとし、その新たな組織が飲用牛乳工場に近いなどのメリットを活かして飲用向け市場に割り込めば、そのしわ寄せはすべて既存の指定団体とその傘下の生産者が受けることになります。


3 さらに、飲用として売れない余乳が生産者の足を引くことに

 他方、指定団体による日々のきめ細かな需給調整が行われなくなると、飲用市場に国内生乳が集中する結果、乳製品工場が極めて少ない都府県の消費地域では、飲用向けの需要を超えて行き場を失った余乳がゲリラ的に発生することになりかねません。つまり前述した「飲用市場への生乳の集中」の次には、「売れなかった飲用向け生乳が、踵を返して数少ない乳製品工場に向かう」事態が生じることになります。

 指定団体制度が機能している現在は、各地域の指定団体と全国連との連携によって合理的な集送乳がなされ、余乳はコストの観点からも最適と考えられる乳製品工場(北海道を含む)でバターなどの乳製品の生産に仕向けられています。しかし、それができなくなると、乳製品工場の少ない都府県で行き場を失い、生乳(余乳)が廃棄されるリスクも高まると予想されます。なぜなら加工原料乳を支援対象とした現行制度が、半世紀に及ぶ歴史を通じて、この制度の下で最も効率的な産業機能配置の観点から、消費地に遠く生乳生産が豊富な北海道へと乳製品の加工処理機能の集中を誘導し、逆に消費地である都府県では乳製品工場が数の上でも加工能力の上でも極めて小さいものへと縮小に導いていったためです。

 さらに、現行制度の下では北海道で乳製品向けに供給されていたはずの生乳の一部が都府県に向かう結果、北海道内で乳製品向けの生乳が不足し、道内の乳業工場の操業効率が低下する展開も予想されます。そもそも産業の「基本」として、北海道などのように大消費地から遠い地域で生産された生乳は、牛乳よりも保存性の高い乳製品に加工して、供給の時期や量を調整しつつ大消費地に供給することが合理的でもあります。

 このように需要を超えて飲用市場に生乳が集中する結果、行き場を失った生乳が仮に廃棄を免れたとしても、余乳として応急的に委託加工された乳製品は品質が著しく劣ってしまうため商品としての価値が低く、割り増しコストも要しているため生乳に換算した価格は通常の加工向けの価格とは比べようもないほど低いものとなります。しかも、メーカーはこのような乳製品を在庫として持ちたがらないため、委託加工した乳製品は生産者側の引き取りが条件となるケースがほとんどです。


4  そして、生産者も消費者も得をしない世界へ

 結果的に、先に述べた飲用向けに生乳が集中することによる乳価の低下とあいまって酪農家の所得は低下し、バターなどの乳製品の生産も少なからず減少するものと思われます。

 このように、バター不足に端を発して、それとは無関係の指定団体制度を廃止すれば、規制改革会議のいう目的(生産基盤の維持・回復、酪農家の所得の向上、バター不足の解消)とは全く反対に、主産地を中心に生産は縮小し、日本全体の酪農家の所得は減少し、バター不足の解消どころか、不足に拍車をかけることにもなりかねないと考えています。

 読者の皆さんにご理解いただきたいのは、規制改革会議の提言が出たとき、実務を担っている関係者が口をそろえて「そんなバカな理屈があるものか」と一刀両断にし、あまりの見当違いに苦笑していたという事実です。第三者委員会が流行のご時勢ですが、「餅は餅屋」という言葉を軽視してはいけません。


5 バター不足の原因と指定団体の機能について(補足説明)

 ここで上記の補足的説明として、バター不足の原因と指定団体制度についても簡単に触れておきましょう。

 まず、バターの不足ですが、これは牛乳乳製品の需要に対して生乳生産が不足したために生じたものです。そのための対応策として国家貿易制度によるバター等の乳製品の輸入という仕組みが措置されています。残念ながら、一昨年は、国家貿易制度の運用が量とタイミングの点で十分に適切でなかったために、小売店頭においてバターの不足という現象が生じてしまったのでしょう。また、このことがマスコミによって報道されたことが消費者の買い急ぎを誘発し、不足に拍車をかけてしまった面もあるのではないかと思われます。

 次に、指定団体制度ですが、指定団体にはさまざまな機能があります。基本的な機能は、生乳の需給調整、生乳流通の合理化、そして生乳販売面における価格交渉力の強化でしょう。いいかえれば、需要に応じた生乳生産(需給逼迫時には増産に努力)と合理的な集送乳を通じて酪農経営の安定と所得の向上を図ることを主な目的としているといっていいでしょう。バター不足問題とはまったく無関係どころか、国家貿易制度の運用と連携して、むしろそのような事態をできる限り回避するための仕組みとして機能しているといえます。

 なお、次回は、4「提言は生産者間の不平等を助長するという点」について詳しい説明を試みる予定です。










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17:
大変わかりやすい内容ですね。

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プロフィール

酪農乳業関連制度研究会

Author:酪農乳業関連制度研究会
 私たちは、規制改革会議による指定生乳生産者団体制度に関する提言等について、ある雑誌の特集に様々な立場から論考を執筆した者及びその特集内容に共感する有志です。
 特集では、それぞれに立場は異なるものの、一致して規制改革会議の運営の仕方や提言等について根本的な疑問を共有していることがわかりました。このため、関係者ばかりでなく一般の方々にも、私たちが何を問題としているのかを理解していただきたく、意見を表明することとしました。

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